「温泉」と名乗れる条件は、温泉法で決まっています。結論から言うと、源泉の温度が25℃以上、または法律の別表にある19の物質のどれかが基準以上含まれていれば「温泉」です。つまり10℃の冷たい水でも、成分次第で立派な温泉になります。
がやはこれまで当サイトで80か所以上の温泉地を記事にしてきましたが、泉質を意識して湯めぐりをすると、温泉の楽しみは確実に一段深くなります。この記事では温泉法の定義から10種類の泉質までを整理し、それぞれの泉質を実際に楽しめる温泉地の記事へご案内します。
・温泉法による「温泉」の定義(25℃または19物質)
・泉質名が付く条件──「療養泉」という考え方
・10種類の泉質の特徴と、当サイトで読める実例記事
・江戸の温泉番付と泉質の意外な関係
温泉法による温泉の定義
そのため、10℃の冷たい水でも、別表にある物質が規定以上含まれていれば温泉です。
根拠となる温泉法(昭和23年制定)の条文はこちらです。
(定義)
第二条 この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。
2 この法律で「温泉源」とは、未だ採取されない温泉をいう。
別表
一 温 度(温泉源から採取されるときの温度とする。)
摂氏二十五度以上
二 物 質(左に掲げるもののうち、いづれか一)
(別表)温泉に該当する19の物質一覧
温度が25℃未満でも、次の物質のいずれか1つが基準値以上なら温泉法上の「温泉」です。
| 物質名 | 含有量(一キログラム中) |
| 溶存物質(ガス性のものを除く。) | 総量1,000mg以上 |
| 遊離炭酸(CO2) | 250mg以上 |
| リチウムイオン(Li+) | 1mg以上 |
| ストロンチウムイオン(Sr2+) | 10mg以上 |
| バリウムイオン(Ba2+) | 5mg以上 |
| フエロ又はフエリイオン(Fe2+,Fe3+) | 10mg以上 |
| 第一マンガンイオン(Mn2+) | 10mg以上 |
| 水素イオン(H+) | 1mg以上 |
| 臭素イオン(Br–) | 5mg以上 |
| 沃素イオン(I–) | 1mg以上 |
| ふつ素イオン(F–) | 2mg以上 |
| ヒドロひ酸イオン(HASO42-) | 1.3mg以上 |
| メタ亜ひ酸(HAsO2) | 1mg以上 |
| 総硫黄(S)〔HS-+S2O32-+H2Sに対応するもの〕 | 1mg以上 |
| メタほう酸(HBO2) | 5mg以上 |
| メタけい酸(H2SiO3) | 50mg以上 |
| 重炭酸そうだ(NaHCO3) | 340mg以上 |
| ラドン(Rn) | 20(百億分の1キユリー単位)以上 |
| ラヂウム塩(Raとして) | 1億分の1mg以上 |
泉質名が付く条件──「療養泉」とは
実は、温泉法上の「温泉」すべてに泉質名が付くわけではありません。泉質名(単純温泉・硫黄泉など)が付くのは、温泉のうち温度または特定成分の基準を満たした「療養泉」だけです。基準は環境省の「鉱泉分析法指針」で定められています。
たとえばメタけい酸の含有量だけで温泉に該当した場合、温泉ではあるものの療養泉ではないため、分析書には泉質名なしの温泉として記載されます。旅先の脱衣所で泉質名が見当たらなかったら、このパターンかもしれません。
10の泉質と当サイトで読める実例
泉質は平成26年(2014年)7月の「鉱泉分析法指針」改訂で整理され、現在は10種類に分かれています。まずは新旧対照表から。
| 掲示用泉質名 | 旧泉質名 | 新泉質名 | 条件 |
|---|---|---|---|
| ①単純温泉 | 1.単純温泉 | 単純温泉 | pH8.5未満 |
| アルカリ性単純温泉 | pH8.5以上 | ||
| ②二酸化炭素泉 | 2.単純炭酸泉 | 単純二酸化炭素泉 | 1kg中に遊離炭酸を1g以上 |
| ③炭酸水素塩泉 | 3.重炭酸土類泉 | カルシウム(・マグネシウム)-炭酸水素塩泉 | 炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)の含有量が340mgを超える |
| 4.重曹泉 | ナトリウム-炭酸水素塩泉 | ||
| ④塩化物泉 | 5.食塩泉 | ナトリウム-塩化物泉 | 陰イオンの主成分が塩化物イオン |
| ⑤含よう素泉 | ———– | 含よう素-ナトリウム-塩化物泉 | 温泉水1kg中によう化物イオンを10mg以上含 |
| ⑥硫酸塩泉 | 6.硫 酸 塩 泉 | 硫酸塩泉 | 陰イオンの主成分が硫酸イオン (SO42-) のもの |
| ⑦含鉄泉 | 7.鉄 泉 | 鉄泉 | 総鉄イオン (Fe2+, Fe3+) を20mg以上含 |
| 8.緑礬泉(りょくばんせん) | 鉄(II)-硫酸塩泉 | ||
| ⑧硫黄泉 | 9.硫 黄 泉 | 硫黄泉 | 総硫黄 (S) [HS-, S2O3–, H2S に対応するもの] を2mg以上含有 |
| ⑨酸性泉 | 10.酸性泉 | 単純酸性泉 | 水素イオンを1mg以上含有 |
| ⑩放射能泉 | 11.放 射 能 泉 | 単純弱放射能泉 | ラドンを3ナノキュリー以上含有 |
ここからは10の泉質を1つずつ、当サイトで実際に紹介した温泉地の記事とあわせて見ていきます。※各温泉の詳しい泉質・適応症は、現地の温泉分析書(温泉法第18条により掲示が義務付けられています)でご確認ください。
①単純温泉
成分が薄め(溶存物質1g/kg未満・25℃以上)で肌への刺激が穏やかなため、「家族の湯」とも呼ばれます。日本で最も数が多い泉質で、名湯と呼ばれる温泉地にも多数あります。
②二酸化炭素泉
湯に溶けた炭酸ガスが肌に細かい泡となって付く「ラムネの湯」。日本では湧出量が少ない希少な泉質で、大分・長湯温泉などが知られています。当サイトではまだ紹介記事がなく、今後の宿題です。
③炭酸水素塩泉
重曹を含むアルカリ性の湯は古い角質をやわらげるとされ、「美人の湯」と呼ばれることの多い泉質です。飲泉に利用される温泉地もあります。
④塩化物泉
塩分が肌に膜をつくり湯冷めしにくいといわれる「熱の湯」。海沿いの温泉地に多い泉質です。なめると塩辛いのが見分け方です。
⑤含よう素泉
2014年の指針改訂で新設された、いちばん新しい泉質です。時間が経つと湯が黄色みを帯びるのが特徴で、非火山性の温泉に多いとされます。こちらも当サイトではまだ紹介記事がありません。
⑥硫酸塩泉
石膏や芒硝などを含む、古くから「傷の湯」と呼ばれてきた泉質です。飲泉文化のある温泉地にもよく見られます。
⑦含鉄泉
空気に触れると酸化して湯が赤茶色に染まる泉質です。源泉では無色でも、浴槽で「赤湯」になっているのが見分け方です。
⑧硫黄泉
「温泉らしい温泉」の代名詞ともいえる、ゆで卵のような匂いの泉質です。乳白色のにごり湯になることが多く、火山地帯に集中しています。
⑨酸性泉
pHが低く殺菌力の強い、刺激的な泉質です。ピリピリとした浴感が特徴で、湯あたりしやすいため長湯は禁物です。
⑩放射能泉
微量のラドンを含む泉質で、「ラジウム温泉」の名で親しまれてきました。湯治利用の歴史が長い泉質です。
江戸の温泉番付に「泉質」はなかった
当サイトが研究している江戸時代の温泉番付『諸國温泉功能鑑』には、泉質という言葉は登場しません。泉質による分類は明治以降の温泉分析の発達と、昭和23年(1948年)の温泉法によって整った近代の体系だからです。
では江戸の人々が湯を何で選んだかというと、番付の名前のとおり「功能」──つまり効き目の評判でした。長い湯治の実績が番付の格付けをつくり、その多くはいま泉質で説明できる個性と重なります。江戸の評判と現代の泉質を突き合わせて読むのも、温泉番付の楽しみ方のひとつです。
江戸番付の全体像はこちらの記事にまとめています。
江戸の温泉番付『諸國温泉功能鑑』を読み解く(当サイトの番付研究まとめ)

