木賀温泉ガイド|将軍家献上『相州木賀の湯』と子宝の湯・箱根の古湯

子宝の湯」と呼ばれ、江戸の昔から女性たちにひそかに愛されてきた湯が、箱根にあるのをご存じでしょうか。早川渓谷の渓流沿い、宮ノ下温泉と底倉温泉の隣にひっそりと湯けむりを上げるその名湯が ── 木賀温泉(きがおんせん) です。

開湯は 12世紀末。源頼朝の家人・木賀善司吉成が合戦の負傷を癒した(重病を癒したとも伝わる)という、約840年の歴史を持つ古湯です。白狐に導かれて湯を見つけたという神秘的な開湯伝説を持ち、江戸期には湯本・塔之沢・宮ノ下と並ぶ 徳川将軍家への献上湯 に選ばれました。側室の妊娠を願う水浴に用いられたことから「子宝の湯」「血の道の湯」と呼ばれ、温泉番付『諸国温泉功能鑑』にも「相州木賀の湯」として名を連ねた、女性に縁深い名湯です。

この記事では、がやが一次史料と公式情報を読み解きながら、木賀温泉ならではの歴史と魅力 をたっぷりご紹介します。箱根全体については箱根温泉ガイド、湯本については箱根湯本温泉ガイド、塔之沢については塔之沢温泉ガイド、底倉については底倉温泉ガイドもあわせてご覧ください。

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神奈川・木賀温泉ガイド|江戸番付『相州木賀の湯』×源頼朝家人・木賀善司吉成の白狐伝説と徳川将軍家「子宝の湯」
江戸番付「相州木賀の湯」に名を連ね、徳川将軍家に献上された箱根七湯の名湯・木賀温泉
箱根二十湯イラストマップ(クリックで各温泉のガイドページへ移動)

温泉地名称をクリックすると各温泉の紹介ページへ移動します(現在のページは赤い枠で表示)

📌 がやはまだ木賀温泉の旅館に宿泊した経験がありませんが、本記事は一次史料や箱根町観光協会・KKR箱根宮の下・箱根登山鉄道の公式情報をていねいに読み解いて執筆しています。

執筆:がや

出張と趣味で全国の温泉宿に通算200泊以上。江戸期温泉番付の現物(弘化2年改訂版『諸國温泉鑑』)を所有し、番付に載る温泉地を一つずつ訪ねて歴史的視点で記事にしています。江戸の温泉番付『諸国温泉鑑』を今の温泉名にして地図に表記した記事もあわせてご覧ください。

📑 目次

  1. 早川渓谷沿いの将軍家献上湯、木賀温泉とは
  2. アクセス・施設情報
  3. 現代の現役施設 ── KKR箱根 宮の下
  4. 四季の楽しみ方と「宮城野木賀夏祭り」
  5. 泉質 ── 複数泉質が混在する箱根の名湯
  6. 木賀善司吉成と白狐伝説 ── 12世紀末の開湯譚
  7. 戦国の「宮城野湯」とかつての五つの元湯
  8. 江戸期:徳川将軍家献上湯4湯の一つ ── 「子宝の湯」の伝承
  9. 江戸の温泉番付に登載された「相州木賀の湯」
  10. 明治期:外国人医師・軍人に愛された繁栄
  11. 明治の鉄道整備と1919年箱根登山鉄道全線開業
  12. 周辺観光 ─ 白狐稲荷・宮ノ下温泉・底倉温泉
  13. 訪問前に知っておきたい注意事項
  14. よくある質問(FAQ)
  15. まとめ・関連記事

📌 この記事で分かること

  • 源頼朝の家人・木賀善司吉成による開湯伝承と、温泉に導いた白狐をめぐる「白狐稲荷」の物語
  • 江戸期に徳川将軍家献上湯4湯に選ばれ、温泉番付にも載った木賀の格式
  • 「子宝の湯」「血の道の湯」と呼ばれた女性向け効能と、明治期に外国人客でにぎわった歴史
  • 現代に残る現役施設「KKR箱根 宮の下」の自家源泉「美肌の湯」の魅力
  • 新宿からのアクセスと、白狐稲荷・宮ノ下・底倉をめぐる周辺観光

早川渓谷沿いの将軍家献上湯、木賀温泉とは

木賀温泉は、箱根七湯の一つとして江戸期に栄えた、早川渓谷沿いの中規模温泉地です。宮ノ下温泉と底倉温泉の隣に位置し、国道138号(旧塔之沢〜小田原往還)沿いに広がる老舗旅館エリアを中心とした構成。現在一般に開かれた現役施設は「KKR箱根 宮の下」(自家源泉「美肌の湯」)の1軒のみで、大型公共宿として木賀の湯を今に伝えます。明治期の繁栄から現代まで、湯量豊富な自家源泉が個性を保ちます。かつての木賀温泉街は集約されておらず、宮ノ下温泉と底倉温泉の間に施設が点在する分散配置で、街並み散策よりも湯量豊富な自家源泉をゆっくり楽しむスタイルの温泉地です。

項目 内容
所在地 神奈川県足柄下郡箱根町木賀1013-63 周辺
位置 早川渓谷沿い・宮ノ下温泉と底倉温泉の隣
現役施設 KKR箱根 宮の下(木賀温泉の自家源泉「美肌の湯」)
アクセス 箱根湯本駅から箱根登山バスで「木賀の里」下車
新宿からの所要時間 ロマンスカー+登山バスで約110分
箱根七湯での位置 中部エリア(宮ノ下温泉と底倉温泉の隣)。江戸期は湯本・塔之沢・宮ノ下と並ぶ徳川将軍家献上湯4湯の一つ
泉質 複数泉質混在(単純温泉・アルカリ性単純温泉・ナトリウム塩化物泉・ナトリウム・カルシウム塩化物・炭酸水素泉)
江戸期番付 東-前頭3段目「相州木賀の湯」(嘉永4年版・諸国温泉功能鑑)
江戸期通称 「子宝の湯」「血の道の湯」(女性向け効能伝承)

新宿駅からの所要時間は 箱根湯本駅まで小田急ロマンスカー最速73分箱根湯本から箱根登山バスで約30〜40分=合計約110分。箱根七湯の中でも比較的奥まった位置にあり、現代では木賀温泉を一般客が楽しめる施設は限定的ですが、KKR箱根 宮の下 で江戸期から続く木賀の湯を体験できます。


アクセス・施設情報

所在地 神奈川県足柄下郡箱根町木賀1013-63 周辺
エリア 早川渓谷沿い・宮ノ下温泉と底倉温泉の間
最寄駅 箱根登山鉄道 宮ノ下駅(バス接続推奨)
最寄バス停 箱根登山バス 「木賀の里」(箱根湯本駅から湖尻・桃源台行きで約30〜40分)
代表施設 KKR箱根 宮の下(木賀温泉自家源泉「美肌の湯」)
駐車場 各施設に専用駐車場あり
木賀温泉 アクセス経路図(東京・新宿・羽田)木賀温泉 アクセス経路図(東京駅・新宿駅・羽田空港の3ハブ)東京駅新宿駅羽田空港🚄 新幹線こだま約35分🚄 ロマンスカー約73分🚆 京急+新幹線約100分🚆 登山鉄道約15分🚌 登山バス約30〜40分合計:新宿から約105〜115分(ロマンスカー+箱根登山バス)/東京から約110〜130分(新幹線+登山鉄道+バス)羽田から約150〜170分(京急+新幹線+登山鉄道+箱根登山バス)車利用は東名「厚木IC」→小田原厚木道路→箱根口ICから国道138号で約80分(東京から)
新宿駅から木賀の里バス停までのアクセス(小田急ロマンスカー+箱根登山バスで合計約105〜115分)

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新宿からのアクセス

ロマンスカー+箱根登山バス(推奨)

  • 新宿駅 → 小田急ロマンスカー 最速73分 → 箱根湯本駅
  • 箱根湯本駅 → 箱根登山バス(湖尻・桃源台行き) 約30〜40分 → 木賀の里バス停
  • 合計:約105〜115分
  • 運賃:約 2,470円(特急料金込み)+ 箱根登山バス(運賃別)

車でのアクセス

東名高速 → 厚木IC → 小田原厚木道路 → 箱根口IC → 国道1号→国道138号経由で約80分(東京から)。木賀温泉エリアは 国道138号沿い に立地し、駐車場はある程度確保されています。

箱根フリーパス利用

箱根湯本〜強羅の登山鉄道、登山バス、箱根海賊船、箱根ロープウェイ等が乗り放題の 箱根フリーパス(新宿発2日券 7,100円) が利用可能です。木賀温泉のバス区間もフリーパス対象。


現代の現役施設 ── KKR箱根 宮の下

現代の木賀温泉では、KKR箱根 宮の下で江戸期から続く木賀の湯を体験できます。

KKR箱根 宮の下(国家公務員共済組合連合会)

項目 内容
運営 国家公務員共済組合連合会(KKR)
立地 木賀温泉エリア(住所:箱根町木賀)
自家源泉 木賀温泉「美肌の湯」(自家源泉直引き)
利用形態 宿泊利用(一般の方も予約可)。日帰り入浴は基本的に実施せず宿泊者向け(要事前確認)

KKR箱根 宮の下は、木賀温泉の湯に宿泊して浸かれる数少ない現役施設 として、江戸期の徳川将軍家献上湯の系譜を現代に継承 する貴重な存在です。

浴室 ── 早川を望む露天「せせらぎの湯」と内湯

KKR箱根 宮の下では、早川の渓流を望む露天風呂 「せせらぎの湯」 を源泉かけ流しで楽しめます。さらに内湯の 「木賀の湯」「ひょうたん風呂」 があり、男女入替制 で時間帯によって両方の湯を味わえます(出典:スルガ銀行「木賀温泉」)。

木賀温泉を楽しめる施設が限定的な理由

江戸期に旅館が複数軒並んだ木賀温泉ですが、現代では現役の温泉宿が限定的 になった背景には、昭和以降の温泉地構造の変化(隣接する宮ノ下・底倉とのエリア統合化など)があります。現存する施設で江戸期の名湯を体験できる希少性 が、現代の木賀温泉の独自価値です。

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四季の楽しみ方と「宮城野木賀夏祭り」

木賀温泉は早川渓谷沿いに位置するため、四季の渓谷美 が大きな魅力です。春は新緑、夏は涼やかな渓流と祭り、秋は 早川渓谷の紅葉、冬は澄んだ空気の中での湯あたり ── 季節ごとに表情を変えます。

季節 楽しみ方
春(3〜5月) 早川渓谷の新緑・周辺の桜
夏(7〜8月) 涼やかな渓流・宮城野木賀夏祭り(例年8月中旬)
秋(10〜11月) 早川渓谷の紅葉・箱根全体の紅葉シーズン
冬(12〜2月) 澄んだ空気の中での温泉・観光客が落ち着く静かな時期

宮城野木賀夏祭り ── 虫送り火まつり(例年8月中旬)

木賀温泉の夏の風物詩が、隣接する宮城野・木賀地区で 例年8月中旬(近年は8月15日) に行われる 「宮城野木賀夏祭り(虫送り火まつり)」 です(主催:箱根町宮城野木賀観光協会)。開催日やプログラムは年によって変わるため、お出かけ前に主催の最新案内をご確認ください。

直近(2025年)のプログラムを例にとると、当日の流れはおおむね次のとおりでした。

  • 10:00 供養祭(宝珠院にて)
  • 16:00 開場・箱根中学校吹奏楽部の演奏、津軽三味線・盆踊りなど
  • 18:30 諏訪神社から虫送りの隊列が出発
  • 20:00 お祭り広場で虫送りのお焚き上げ

会場ではビール・かき氷・焼き鳥などの屋台も並びます。

「虫送り」は、たいまつの火で害虫を追い払い豊作と無病息災を祈る伝統行事。箱根の山あいに灯る火と祭りの音 は、温泉とあわせて夏の木賀ならではの体験です(出典:宮城野木賀観光協会「虫送り火まつり」箱根町観光協会)。


泉質 ── 複数泉質が混在する箱根の名湯

木賀温泉の泉質は、箱根の地質的多様性 を反映して 複数泉質が混在 する特徴を持ちます。木賀温泉郷全体では 源泉総数10湧出量 約605L/分泉温 約20〜80℃ と、箱根七湯の中でも湯量に恵まれた温泉地です(出典:箱根ナビ「木賀温泉」)。

項目 データ
源泉総数 10源泉
湧出量 約605L/分
泉温 約20〜80℃(源泉により幅あり)
KKR自家源泉「美肌の湯」 弱アルカリ性単純温泉・pH7.89・源泉温度約67℃・メタケイ酸豊富

泉質の種類

泉質 特徴
単純温泉 無色透明・無味無臭・刺激が少ない
アルカリ性単純温泉 pH 8.5以上・美肌効果伝承
ナトリウム塩化物泉(弱食塩泉) 体を温める・湯冷めしにくい
ナトリウム・カルシウム塩化物・炭酸水素泉(含土類弱食塩泉) 複合効能・湯ざわりが滑らか

「美肌の湯」と呼ばれる背景

KKR箱根 宮の下では木賀温泉の自家源泉を 「美肌の湯」 と称しており、アルカリ性単純温泉のpH皮膚表面の角質に作用 する性質に基づく通称です(医学的効能を保証するものではなく、肌触りの感想に基づく地元での呼称)。

効能(適応症)

温泉法に基づく適応症(一般効能):

  • 筋肉痛・関節痛・腰痛
  • 疲労回復・健康増進
  • 冷え性・末梢循環障害
  • 慢性消化器病

⚠ 温泉の効能は個人差があり、医学的治療を保証するものではありません。持病のある方や妊娠中の方は、入浴前に主治医にご相談ください。

江戸期の「子宝の湯」との対応

江戸期に「子宝の湯」「血の道の湯」と呼ばれた背景は、ナトリウム塩化物泉・炭酸水素泉の血行促進・体温保持作用女性の冷え性・末梢循環障害に対応 していたと推測されます。ただし、現代医学的には個人差が大きく、医療的治療の代替にはなりません


木賀善司吉成と白狐伝説 ── 12世紀末の開湯譚

木賀温泉の最も有名な歴史伝承が、源頼朝の家人・木賀善司吉成(きが ぜんじ よしなり)の開湯譚 です。

治承・寿永の乱(1180〜1185年)の頃

年代 出来事
1180〜1185年 治承・寿永の乱(源平合戦)
同期 源頼朝の家人・木賀善司吉成が合戦で負傷
同期 吉成が箱根の山中に分け入る
同期 白狐が現れ、吉成を温泉に導く
同期 温泉で傷を癒した吉成が合戦に復帰
戦後 吉成がその地の地頭の任に就き、地名が 「木賀」 となる
後世 温泉も 「木賀温泉」 と呼ばれるようになる

白狐伝説 ── 妻となった白狐と白狐稲荷

吉成を温泉に導いた 白狐は吉成の妻となった と伝えられ、死後は 白狐稲荷 として奉られました。この伝説は、人と異類(神獣)の婚姻譚として、箱根の温泉信仰における重要な物語として伝えられてきました。

開湯伝説の歴史的位置付け

木賀温泉の開湯は 12世紀末 という、箱根七湯の中でも 湯本(738年釈浄定坊開湯)に次ぐ古湯 にあたる時期です。「合戦負傷を温泉で癒す」 という典型的な武将開湯譚に 白狐の導き という神秘的要素が加わった、箱根七湯の中でも特に物語性の高い開湯譚 として語り継がれています。


戦国の「宮城野湯」とかつての五つの元湯

木賀温泉の歴史をさかのぼると、献上湯に選ばれる以前から箱根の有力な湯であったことがわかります。戦国時代、木賀一帯の湯は「宮城野湯(みやぎのゆ)」の名で記録され、小田原を本拠とした後北条氏の直轄温泉 として管理されていたと伝えられます(出典:Wikipedia「箱根温泉」)。

江戸時代に入ると、前章で見たとおり 温泉奉行が置かれて徳川家への献上湯を管理 するなど、公的な統制下に置かれた格式高い湯でした。

かつての五つの元湯

最盛期の木賀温泉には、五つの元湯 が湧いていたと伝えられます。

元湯 備考
上ノ湯 木賀温泉の中心的な湯の一つ
菖蒲ノ湯 五元湯の一つ
岩ノ湯 五元湯の一つ
谷ノ湯 五元湯の一つ
大滝ノ湯 五元湯の一つ

これら五つの元湯が湧いていたことは、かつての木賀温泉が単なる小さな湯ではなく、複数の源泉を擁する規模の大きな湯治場だった ことを物語ります(出典:箱根ナビ「木賀温泉」)。


江戸期:徳川将軍家献上湯4湯の一つ ── 「子宝の湯」の伝承

江戸時代に入ると、木賀温泉は 箱根七湯の中で湯本・塔之沢・宮ノ下とともに徳川将軍家への献上湯4湯 に選定され、特別な地位を獲得します。

献上湯の用途 ── 側室の妊娠を願う水浴

『箱根町観光協会公式サイト』によれば、徳川将軍家への献上湯としての木賀温泉は、主に側室の妊娠を願う水浴に活用されたと伝えられている という記述が残されています。これは 木賀温泉が「子宝の湯」と呼ばれる根拠 となった伝承です。

「子宝の湯」「血の道の湯」── 女性向け効能伝承

通称 意味
子宝の湯 妊娠・出産を願う湯(側室の水浴記録から派生)
血の道の湯 婦人病・血道症(血の循環不良からくる女性の不調)に効能とされる湯

これらの効能は江戸期の医学的認識に基づくもので、現代医学的には個人差が大きく、医療的治療の代替にはなりません。ただし、ナトリウム塩化物泉・炭酸水素泉などの泉質 は、温泉法上の一般効能として 冷え性・末梢循環障害・慢性消化器病 の適応症が認められており、江戸期の伝承との対応関係はあります。

献上湯の記録 ── 正保元年(1644年)から宝永三年(1706年)まで

箱根旅館組合の公式記録(箱ぴた「将軍家献上湯」)によれば、木賀温泉の将軍家献上は 正保元年(1644年)10月 に始まったと伝えられます。「正保元年十月五日、幕府老中より箱根木賀温泉へ、湯樽二つ届く」との記録が残り、最後の献上記録は 宝永三年(1706年)11月。約60年にわたって続いた制度でした。

同記録に名が明記されている将軍は、三代・徳川家光(正保元年・正保二年・慶安元年)、四代・徳川家綱五代・徳川綱吉(元禄十一年・元禄十二年・宝永三年)です。木賀の献上湯はしばしば「家光・家綱・綱吉の三代」と語られますが、この三代の名はいずれも同記録で確認できます(家綱については具体的な年次の記載がない点に留意)。

江戸まで湯を運んだ「献上湯」の作法

献上の作法は格式高いものでした。紋服・袴姿の湯宿主が長柄の桧(ひのき)の柄杓で源泉を汲み、御湯樽へ移して封印一樽につき担ぎ手四人と予備(手明き)二人が付き、箱根の山を下って江戸まで運んだと伝えられます。将軍・側室が江戸城内で木賀の湯に入れるよう供給されたこの 特別な物流網 に乗ったことは、木賀温泉の格 を物語る歴史的事実です。

⚠ 温泉の効能は個人差があり、医学的治療を保証するものではありません。持病のある方や妊娠中の方は、入浴前に主治医にご相談ください。


江戸の温泉番付に登載された「相州木賀の湯」

木賀温泉は、江戸時代後期の温泉番付『諸国温泉功能鑑』(嘉永4年版・1851年)において 「相州木賀の湯」 として登載されました。

箱根七湯の中の番付ポジション

『諸国温泉功能鑑』には箱根七湯のうち以下が登載されています:

番付 名称 現在
東-前頭1段目 相州足の湯 芦之湯温泉
東-前頭2段目 相州湯元の湯 箱根湯本温泉
東-前頭3段目 相州塔の沢の湯 塔之沢温泉
東-前頭3段目 相州宮下の湯 宮ノ下温泉
東-前頭3段目 相州姥子の湯 姥子温泉
東-前頭3段目 相州木賀の湯 木賀温泉(本記事)
東-前頭4段目 相州底倉の湯 底倉温泉

木賀は 箱根七湯の中で前頭3段目(塔之沢・宮ノ下・姥子と同位) に位置し、底倉(4段目)より上位。江戸期に湯本・塔之沢・宮ノ下と並ぶ 徳川将軍家献上湯4湯の一つ に選定されたことが、この高い番付ポジションを支えています。


明治期:外国人医師・軍人に愛された繁栄

明治時代に入ると、木賀温泉は 外国人医師・軍人 に愛される温泉地として新たな発展を遂げました。

1876年以降の繁栄

明治9年(1876年)以降、外国人医師や軍人がこの地を愛するようになり、新道(現在の国道138号)沿い には:

旅館名 系譜
亀屋(かめや) 江戸期から続く老舗
いせや(伊勢屋) 江戸期からの湯宿
松坂屋(まつざかや) 中規模旅館

これらの旅館が 軒を連ねるほどの繁栄 を示したと記録されています。外国人医師・軍人が木賀を選んだ理由 は、宮ノ下温泉(富士屋ホテル中心の外国人リゾート)の隣接 という地理的優位と、療養効果の高い泉質 にあったと推察されます。

隣接する宮ノ下温泉との関係

宮ノ下温泉は 1878年(明治11年)創業の富士屋ホテル を中心に 国際的な観光地 として発展しました。木賀温泉は 宮ノ下の東隣 に位置するため、外国人観光客が宮ノ下を拠点に木賀の湯治を楽しむ という連携が形成されたと考えられます。

温泉医学の時代背景 ── ドイツ人医師ベルツと外国人客

明治期は、ドイツから来日した医師 エルヴィン・フォン・ベルツ が日本各地の温泉の療養価値を医学的に評価し、広く紹介した時代でした。こうした温泉療養への注目を背景に、隣接する宮ノ下を拠点とした外国人医師・軍人が木賀の湯を愛したと伝えられます。

1892年の火災と「幻の温泉地」

しかし 明治25年(1892年)の火災 によって木賀温泉は大きな打撃を受け、その後しだいに衰退していきました。かつて五つの元湯と複数の旅館でにぎわった木賀は、現在では一般に開かれた現役施設が限られることから 「幻の温泉地」 とも呼ばれます。江戸期の献上湯の格式と明治の国際的なにぎわいを知ると、現在の静かなたたずまいは、かえって深い歴史の余韻を感じさせます(出典:Wikipedia「箱根温泉」)。


明治の鉄道整備と1919年箱根登山鉄道全線開業

明治時代に入ると、箱根温泉郷全体は 箱根登山鉄道の整備 とともにアクセスが向上しました。

段階的な鉄道発展史

出来事
1888年(明治21年) 小田原馬車鉄道 開業(国府津駅前〜湯本)
1900年(明治33年) 湯本までの電化運転開始
1919年(大正8年)6月1日 箱根登山鉄道 箱根湯本〜強羅 全線開業(湯本・塔ノ沢・大平台・宮ノ下・小涌谷・二ノ平〔現・彫刻の森〕・強羅の7駅同時開業)
1921年(大正10年) 箱根登山鉄道ケーブル線 強羅〜早雲山開業

1919年宮ノ下駅開業の意義(木賀温泉のアクセス向上)

1919年の宮ノ下駅開業 により、東京・首都圏から 宮ノ下駅+徒歩 or バス接続 で木賀温泉へのアクセスが格段に向上。外国人観光客が富士屋ホテル(宮ノ下)を拠点に木賀の湯治を楽しむ という連携が確立されました。

戦後:小田急ロマンスカーとの連携

戦後、小田急電鉄が新宿〜小田原間に特急ロマンスカー を運行開始し、箱根湯本まで直通 するサービスが整備されたことで、現在の 新宿〜木賀 約110分 という所要時間が確立しました。


周辺観光 ─ 白狐稲荷・宮ノ下温泉・底倉温泉

木賀温泉に宿泊すると、徒歩〜バス圏で歴史散策と温泉巡り が楽しめます。

1. 白狐稲荷

項目 内容
由来 木賀善司吉成の妻となった白狐を奉る
立地 木賀温泉エリア内
特徴 木賀温泉の開湯伝説の原点

2. 宮ノ下温泉(隣接)

項目 内容
富士屋ホテル 1878年(明治11年)創業・登録有形文化財
距離 木賀から徒歩〜バスで約5〜10分
特徴 外国人観光客向けのリゾート温泉地

3. 底倉温泉(隣接)

底倉温泉ガイド も参照。1590年豊臣秀吉の太閤の岩風呂1403年新田義則潜伏記録を持つ箱根七湯の隠れ湯。木賀から徒歩・バスで近接。

4. 蛇骨渓谷

底倉温泉発祥の渓谷で、温泉析出物(白色無定形珪酸)が「蛇の骨」のような形状 をなす独特の景観。木賀からも訪問可能です。

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木賀温泉が位置する 神奈川県箱根町 ならではの特産品 ── 箱根寄木細工箱根のかまぼこ箱根山系の地酒 などはふるさと納税の返礼品として全国から取り寄せできます。徳川将軍家献上湯の旅のお土産代わりに、江戸期から続く箱根七湯の伝統工芸と箱根町の食文化を税控除付き で応援できます。

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訪問前に知っておきたい注意事項

⚠ 訪問前に確認したいこと

  • 木賀温泉は 箱根七湯の一つ。箱根全体は箱根温泉ガイドを参照
  • 現代では木賀温泉を一般客が楽しめる施設は KKR箱根 宮の下 等に限定。事前に各施設の公式情報で営業状況を確認推奨
  • 最寄駅は 箱根登山鉄道 宮ノ下駅 だが、徒歩アクセスは推奨されず バス(木賀の里バス停下車) 利用が標準
  • 箱根登山バス区間は 箱根フリーパス対象。新宿発2日券7,100円が便利
  • 泉質は複数混在(単純温泉・アルカリ性単純温泉・ナトリウム塩化物泉・含土類弱食塩泉)。各旅館で泉質が異なるため事前確認推奨
  • 江戸期の「子宝の湯」「血の道の湯」は 当時の通称 であり、医学的効能を保証する表現ではありません
  • 白狐稲荷の参拝時は、地元住民の生活エリアであることに配慮し静粛に

よくある質問(FAQ)

Q1. 木賀温泉は江戸時代の温泉番付に載っていたのですか?
A. はい。江戸時代後期の温泉番付『諸国温泉功能鑑』(嘉永4年版・1851年)東-前頭3段目に 「相州木賀の湯」 として登載されています。箱根七湯の中では塔之沢・宮ノ下・姥子と同じ前頭3段目で、底倉(4段目)より上位。江戸期に湯本・塔之沢・宮ノ下と並ぶ徳川将軍家への献上湯4湯 の一つに選定された、特別な位置づけの湯です。

Q2. 開湯は誰がいつしたとされていますか?
A. 12世紀末(治承・寿永の乱 1180〜1185年)の頃、源頼朝の家人・木賀善司吉成(きが ぜんじ よしなり)が合戦の負傷を癒した(重病を癒したとも伝わる) と伝えられています。白狐が吉成を温泉に導き、その後吉成の妻となった という美しい開湯伝説があり、白狐は死後 白狐稲荷 として奉られました。

Q3. なぜ「子宝の湯」「血の道の湯」と呼ばれるのですか?
A. 江戸期に 徳川将軍家への献上湯 に選定された際、主に側室の妊娠を願う水浴に活用された と伝えられたことが「子宝の湯」の由来です。また、婦人病・血道症(血の循環不良からくる女性の不調)に効能 とされた江戸期の通称が「血の道の湯」です。これらは江戸期の医学的認識に基づくもので、現代医学的には個人差が大きく、医療的治療の代替にはなりません

Q4. 江戸期の徳川将軍家献上湯4湯とはどこですか?
A. 湯本・塔之沢・宮ノ下・木賀 の4湯です。これら4湯は箱根七湯の中でも特に格式が高く、江戸まで樽詰めで湯を運んで 将軍・側室が江戸城内で入浴できるよう供給されました。

Q5. 現代でも木賀温泉に入れますか?
A. はい。KKR箱根 宮の下(国家公務員共済組合連合会・木賀温泉「美肌の湯」自家源泉)に宿泊すれば、江戸期から続く木賀の湯を体験できます。KKRの宿泊施設は会員制ですが、一般の方も予約・利用が可能です。ただし日帰り入浴は基本的に実施しておらず、宿泊者向けの温泉施設と案内されています(楽天トラベル・公式情報による)。日帰り利用を希望される場合は、必ず事前にKKR箱根 宮の下の公式サイト・電話で営業状況をご確認ください。

Q6. 白狐稲荷はどんな場所ですか?
A. 木賀善司吉成の妻となった白狐を奉る稲荷神社 です。木賀温泉の開湯伝説の原点であり、木賀温泉エリア内に祀られています。人と異類(神獣)の婚姻譚 という箱根の温泉信仰における重要な物語の象徴です。

Q7. 木賀温泉の泉質は?
A. 単純温泉・アルカリ性単純温泉・ナトリウム塩化物泉(弱食塩泉)・ナトリウム・カルシウム塩化物・炭酸水素泉(含土類弱食塩泉) など 複数泉質が混在 しています。各旅館で湧出する源泉が異なるため、宿によって泉質を体験できる点が木賀温泉の特徴です。KKR箱根 宮の下では「美肌の湯」と称される自家源泉が引かれています。

Q8. 明治期に木賀温泉が外国人に愛された理由は?
A. 明治9年(1876年)以降、隣接する宮ノ下温泉に富士屋ホテル(1878年創業)が国際リゾートとして発展 したことが背景にあります。外国人医師・軍人は宮ノ下を拠点に 木賀の湯で療養 したとされ、新道(現国道138号)沿いの 亀屋・いせや・松坂屋 等が軒を連ねる繁栄を示しました。

Q9. アクセス方法は?
A. 箱根湯本駅から箱根登山バス(湖尻・桃源台行き)で「木賀の里」下車 が標準です。宮ノ下駅からの徒歩アクセスは推奨されません。箱根フリーパス(新宿発2日券7,100円) を利用すると、ロマンスカー以外の登山鉄道・登山バス・海賊船・ロープウェイ全てが乗り放題で便利です。

Q10. 木賀温泉と隣の宮ノ下温泉、底倉温泉との違いは?
A. 木賀「子宝の湯」として徳川将軍家献上湯 に選定された 女性に縁深い名湯宮ノ下富士屋ホテル中心の外国人リゾート温泉底倉蛇骨渓谷沿いの隠れ湯(豊臣秀吉太閤の岩風呂)。3温泉地は徒歩〜バスで近接し、箱根七湯の中部エリア(湯本〜強羅の中間) として連続的に体験できます。


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まとめ・関連記事

木賀温泉は、12世紀末・木賀善司吉成の白狐伝説に始まる開湯譚・江戸期に湯本/塔之沢/宮ノ下と並ぶ徳川将軍家献上湯4湯選定・側室の妊娠を願う「子宝の湯」「血の道の湯」の女性向け効能伝承・明治期に外国人医師/軍人に愛された亀屋/いせや/松坂屋の繁栄・現代KKR箱根宮の下「美肌の湯」自家源泉 という多層的な歴史を持つ、箱根七湯の中でも特に女性に縁深い名湯 です。白狐の導きと武将の負傷治癒という美しい伝説が、現代まで 「箱根の隠れた女性向け温泉」 という独自のアイデンティティを支えています。

木賀温泉は箱根温泉ガイドで紹介している箱根七湯の一つです。箱根湯本温泉ガイド塔之沢温泉ガイド底倉温泉ガイドとあわせて読むと、箱根七湯の中部エリアの個性とつながり がより深く見えてきます。

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