箱根 芦之湯温泉 きのくにや旅館 宿泊記|創業311年の宿と34.7℃の硫黄泉

ひと目でわかる きのくにや旅館

宿のタイプ 計40室(館内図)。創業1715年の静けさと本物の湯の老舗旅館
温泉 湯の花が浮く自家源泉の硫黄泉34.7℃と湯の花沢の重曹泉68.3℃の2本。3浴槽とも加水なし
行き方 箱根湯本駅2番のりばからバス約30分「芦の湯」下車 徒歩1〜2分・990円。送迎なし
料金の目安 1泊2食ひとり16,210円から(税込・組合公表の平日料金・2026年9月16日時点)
食事 夕食18時一斉・食事処で10品(お品書き・飲み放題なし)。朝食8時、アジの開きを卓上で焼く
この日の客層 夕食は5組。男性ひとり客3人・女性2人組・男女1組、半分は外国から(2026年9月12日)
向いている人 温泉にゆっくり入りたい人・人に会わずに過ごしたい人。もてなされたい人には物足りない
評価(口コミ) 楽天トラベル3.67(218件・2026年9月16日時点)

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箱根の大浴場に、誰もいませんでした。緑色に濁った硫黄泉を、ひとりで使えたのです。

芦之湯(あしのゆ)の「きのくにや」は、創業1715年、今年で311年。敷地に湧く源泉は34.7℃で、加水はしていません。がやが泊まった離れは、扉を6枚くぐった先にあり、聞こえるのは湯口から落ちる湯の音だけでした。

湯の花が浮く客室露天風呂|箱根・芦之湯 きのくにや

ただし、この宿を「もてなし」で選ぶと外します。フロントに人がいない時間があり、部屋に館内案内もありません。楽天トラベルの評価は3.67(218件・2026年9月16日時点)です。それでも、静けさと本物の湯を求める人にとっては、箱根でほかに代わりのない宿だと感じました。

実際に払った運賃、撮ってきた成分分析書、館内の掲示、歩いて回った史跡をもとに、この宿が誰に向くのかを書きます。

この記事で分かること

  • 迷わず着ける:箱根湯本駅2番のりばから約30分(雨の日に乗ったときは約40分)・990円、バス停から徒歩1〜2分。送迎はなく、無料の駐車場あり(台数は資料で40台・50台と異なる)
  • 湯で選ぶ理由が分かる:源泉2本(敷地内に湧く自家源泉の硫黄泉34.7℃と、湯の花沢からの重曹泉68.3℃)。3浴槽すべて加水なし、神遊風呂(男性用 湯香殿)は循環・消毒もなし
  • 部屋で失敗しない:予約できる露天風呂付きは別館 遊仙観の離れ「日々亭」「美山亭」の2室(楽天トラベルは日々亭のみ、じゃらんnetは両方)。扉を6枚くぐった先にあり、泊まった日は離れのエリアに人の気配がなかった。和室+寝室の2間で、寝室は台座の畳に布団
  • 段取りで損しない:貸切風呂はチェックイン時に予約しないと頼めない。露天風呂は22時まで
  • いくらかかるか:1泊2食ひとり16,210円〜(税込・組合公表の平日料金)+入湯税150円。日帰りなら大浴場1,500円(火・水休)。温泉の持ち帰りは20L 500円(飲用不可・1回80Lまで)

📑 目次

  1. 客室露天風呂──湯の花が浮く、34.7℃の硫黄泉
  2. 泊まった部屋──露天風呂付きの離れは2室。今回泊まった「日々亭」
  3. きのくにやの大浴場と2本の源泉──神遊風呂だけ、循環も消毒もしていない
  4. きのくにやの貸切風呂は2つ──ただし「チェックイン時に頼む」が正解です
  5. きのくにやの夕食──「お品書きのない」10品と、紀州の酒
  6. きのくにやの朝食──焼き魚は温かい。ただし「いつ終わりか」の案内がありません
  7. サービスの実際──どの場面でも、出てくるのはひとりずつ
  8. 費用とプラン
  9. きのくにやはどこにあるか──箱根湯本からバス約30分・990円
  10. 芦之湯という場所──コンビニはない。でも「何もない」わけではない
  11. 1715年からの歴史──紀州徳川家の血筋と、国道1号のもとを発起した七代目
  12. 歩いて行ける史跡──東光庵、ドイツ兵が掘った池、知恩院から来た薬師堂
  13. きのくにやの日帰り入浴と、温泉の持ち帰り
  14. よくある質問
  15. まとめ──きのくにやは誰に向く宿か
  16. 出発前の最終確認──芦の湯バス停の全時刻表

📢 露天風呂付きの離れは2室。予約サイトによって出てくる部屋が違います

きのくにやで露天風呂付きの部屋は、別館 遊仙観1階の離れ「日々亭」と「美山亭」の2室です。楽天トラベルに出てくるのは日々亭だけですが、じゃらんnetには美山亭も出ています(2026年9月時点)。湯の花が浮く34.7℃の硫黄泉を部屋で使えるのはこの2室だけなので、両方のサイトを見比べてください。貸切風呂が無料になるプランもあります。

▶ 楽天トラベルできのくにやの空室・料金を見る

じゃらんnetできのくにやを見る(美山亭もこちら)

客室露天風呂──湯の花が浮く、34.7℃の硫黄泉

客室露天風呂付きで検索して来る方がいちばん知りたいのは、たぶん次の2つだと思います。足を伸ばせるか。外から見えないか。

項目 実測の感覚
長さ 150〜160cm(足を伸ばして、届くか届かないか)
幅 約1m
目隠しの高さ 170cm以上(がやの背丈より高い)。外から見えません
眺望 ありません(塀で囲まれた坪庭型です)

眺望はありません。富士山も芦ノ湖も見えません。板塀で囲まれた、坪庭のような造りです。

湯そのものは、はっきり本物でした

木の湯口から注がれる客室露天風呂の濁り湯|箱根・芦之湯 きのくにや

湯は青みがかった灰緑色に濁っています。底のタイルが途中から見えなくなるくらいの濁りです。

そして湯の花がたくさん浮いています。大きなものも混じっていました。見栄えがいいとは言えません。けれど、これこそ温泉らしさだと感じました。

硫黄のにおいもします。湯口は木製の角樋で、細く落ちています。

離れで聞こえるのは、その湯口から落ちる湯の音だけでした。人の声も足音も、ここまでは届きません。

温度の話は、正直に書きます

到着した夕方、湯に入って「ぬるい」と思いました。39〜40度くらいという感覚です。入れないほどではありません。ただ、長く浸かっていると温まりきらない、という温度でした。

「温めることはできますか」とスタッフに聞いたところ、返ってきた答えはこうでした。

「自分にはできないんです。できる人は明日の朝にならないと来ません」

正直、そのときは愕然としました。

ところが、夜に入ったら温度は上がっていました。体感ではっきり違いました。

なぜぬるかったのか──源泉が34.7℃だから

これは宿の手抜きではありませんでした。この宿の硫黄泉は、源泉の温度が34.7℃なのです。

大浴場に掲示されている温泉分析書に、はっきり書かれています。

  • 芦之湯 第6号/単純硫黄温泉(硫化水素型)/源泉 34.7℃/使用位置 41.0℃
  • 加水は行っていません

つまり、34.7℃の源泉を注ぎながら、加温した同じ源泉を横から入れて、41℃前後に保つという仕組みです。宿のスタッフの説明も「水で薄めているのではなく、出てきた温泉を温めて横から出している」というものでした。掲示と説明が一致しています。

水で薄めていない。温泉好きの方には、ここがいちばん大きいのではないでしょうか。

ただし、客室露天風呂については、温泉法にもとづく掲示(加水・加温・循環装置・消毒の有無)が部屋にありません。大浴場の掲示は3浴槽ぶん確認できましたが、客室露天のものは見当たりませんでした。加温していることは宿の説明とおり確かですが、循環と消毒の有無は掲示がなく不明です。気になる方は予約時に宿へ確認してください。

泊まった部屋──露天風呂付きの離れは2室。今回泊まった「日々亭」

離れ「日々亭」の和室。座卓の奥に縁側|箱根・芦之湯 きのくにや

今回泊まったのは客室露天風呂付きの部屋です。

客室数は出典によって数字が違います。箱根温泉旅館協同組合は「和室37室(うち温泉付客室2室)」、楽天トラベルの施設情報は「25室」。

そして客室数は、館内図がいちばん正確でした。

館内に掲示されている「施設のご案内」には、こう書かれています。

客室 本館26室 別館遊仙観14室 計40室
浴槽数 内湯4 野天6 家族風呂2 貸切露天1

組合の「37室」、楽天トラベルの「25室」より、館内図の「計40室」を採ります。建物は春還楼(しゅんかんろう)・吉昇亭(きっしょうてい)・貴賓殿・湯香殿〔館内図の表記は「遊香殿」〕が本館、そして別館が遊仙観(ゆうせんかん)という構成です。

部屋は、別館 遊仙観1階の「日々亭(にちにちてい)」。楽天トラベルで「離れ【日々亭】 畳ベット・硫黄泉露天風呂・テラス付き」として出てくる部屋です。

その隣に「美山亭(みやまてい)」という、もう1つの離れがあります。館内図にはっきり描かれていて、公式サイトにも「源泉露天風呂付き離れ美山亭」として紹介ページがあります。ただし楽天トラベルの検索には出てきません。1週間後から2か月後まで6日分を調べたところ、出てきた客室は吉昇亭(和室/トイレ付)・春還楼(和室/トイレ・バス付)・離れ【日々亭】の3タイプだけでした。

ここが分かれ目です。美山亭はじゃらんnetには出ています(2026年9月に確認)。つまり「予約できない部屋」ではなく、「サイトによって出たり出なかったりする部屋」でした。美山亭を狙うなら、じゃらんnetを見てください。

楽天トラベルで露天風呂付きとして出ているのは、「離れ【日々亭】 畳ベット・硫黄泉露天風呂・テラス付き」という1タイプです。名前のとおり離れ(別棟)で、「畳ベット」というのが、あとで書く寝室の造りを指しています。

部屋は和室と寝室の2間続きです。

扉を6枚くぐった先にあります

この離れは、ふつうの客室からかなり遠いところにあります。

一般の客室があるエリアから歩くと、扉を6枚ほどくぐらないと、この離れのエリアにたどり着きません。知らなければ、まず来ない場所に立っています。

泊まった日は、離れのエリアにほかの客の気配がありませんでした(本館には宿泊客がいました)。

物音ひとつせず、誰の声も聞こえませんでした。

館内を歩いても、宿泊中に人とすれ違うことは一度もありませんでした。気兼ねなく過ごせます。

なお楽天トラベルでは、ほかに「吉昇亭(和室/トイレ付)」などのタイプが出ています。露天風呂なしの部屋のほうが、当然ながら安く泊まれます。

和室

⬆ 360度パノラマ画像です。マウス/タッチで自由に視点を動かせます。

床の間に掛軸が掛かり、その脇に黒い固定電話が置かれています。赤いリクライニングの座椅子が2脚、座卓、座布団。テレビ、電気ポット、茶器一式。

目を引いたのは天井です。緩やかな曲面の板張り(船底天井)になっています。数寄屋づくりらしい意匠です。畳は新しめで、青みが残っていました。

窓は2方向にあり、障子越しに光が入ります。片側の先には縁側と椅子がありました。

コンセントは端のほうにしかありません。座卓の周りで充電したい方は、短い延長コードを持っていくと楽です。

寝室

⬆ 360度パノラマ画像です。マウス/タッチで自由に視点を動かせます。

寝室は和室とは別の部屋です。ここがこの部屋のいいところでした。

畳が約40cmの高さの台座の上に敷かれていて、その上に布団が2組敷かれています。つまり高さがベッドとほぼ同じです。布団の上げ下ろしがつらい方、床から起き上がるのが苦手な方でも大丈夫です。

楽天トラベルの部屋名にある「畳ベット」は、これを指しています。実際に泊まってみて、この表現は正確だと思いました。

天井は網代天井に太い梁。和室の船底天井とは意匠を変えています。同じ部屋なのに、2つの表情があります。

枕元の左右にあるコンセントと枕棚|箱根・芦之湯 きのくにや

枕元の左右にコンセントが各1か所(各2口)あります。布団2組それぞれの頭の位置です。さらに壁の幅いっぱいに細長い枕棚が渡してあり、スマホや眼鏡を置くのにちょうどいい奥行きでした。

部屋になかったもの

2つあります。

  • 温泉の成分表がありません(大浴場に掲示されています)
  • 館内案内のパンフレットが一切ありません

貸切風呂の案内も部屋にはなく、ロビーまで見に行く必要があります。ここは後の章で詳しく書きます。

📢 露天風呂付きの離れは、サイトによって出る部屋が違います

日々亭は楽天トラベル、美山亭はじゃらんnetに出ています(2026年9月時点)。泊まりたい日の空室は、両方で見比べてください。

▶ 楽天トラベルできのくにやの空室・料金を見る

じゃらんnetできのくにやを見る(美山亭もこちら)

きのくにやの大浴場と2本の源泉──神遊風呂だけ、循環も消毒もしていない

きのくにやには源泉が2本あります。しかも性格がまったく違います。

宿が楽天トラベルに出している紹介文は、こうです(2026年9月16日時点)。

創業江戸時代、古より湧く白濁の自然湧出硫黄泉と重曹泉にいつでも入浴でき、江戸風貸切風呂も人気の旅館

硫黄泉は、宿の敷地内に湧く自家源泉です。公式サイトのトップには「当館敷地から沸き出でる硫黄泉と澄み切った重曹泉」とあり、温泉のページでは「敷地内から湧き出る硫黄泉と湯の花沢の重曹泉」と書き分けています。つまり重曹泉は湯の花沢から引いた湯で、分析書の源泉名も「揚湯2号」です。

芦之湯第6号の温泉分析書(単純硫黄温泉・源泉34.7℃)|箱根・芦之湯 きのくにや

芦之湯 第6号 芦之湯 第11号(揚湯2号)
泉質 単純硫黄温泉(硫化水素型)
低張性・中性・温泉
カルシウム・ナトリウム・マグネシウム-硫酸塩・炭酸水素塩温泉
低張性・弱アルカリ性・高温泉
源泉温度 34.7℃ 68.3℃
見た目・におい 微濁淡黄緑色、硫化水素臭 無色澄明無味無臭
pH 6.76 8.2
遊離硫化水素 2.5mg/kg -
分析 平成30年7月25日 令和7年7月2日(神奈川県温泉地学研究所)

濁って硫黄のにおいがするのが第6号。無色透明で68.3℃あるのが第11号。同じ宿で、まったく違う湯に入れます。

芦之湯第11号 揚湯2号の温泉分析書(源泉68.3℃)|箱根・芦之湯 きのくにや

浴槽ごとに扱いが違います

ここが、この宿でいちばん書く価値があるところだと思います。掲示が浴槽ごとに分かれていて、扱いが違うのです。

浴槽ごとの加水・加温・循環・消毒の掲示|箱根・芦之湯 きのくにや

浴槽 源泉 加水 加温 循環装置 消毒
湯香殿 内湯 第6号 なし あり あり あり(塩素)
湯香殿 神遊風呂 第6号 なし あり(気温の低い期間のみ) なし 行っていません
湯香殿 芦ノ湖周遊風呂 第11号 なし あり(同上) あり あり(塩素)

神遊風呂だけ、循環も消毒もしていません。硫黄泉をそのまま、寒い時期だけ温めて使っている形です。なお、この掲示があるのは男性用の大浴場「湯香殿」の3浴槽です。女性用の浴場の扱いは、男女の入れ替えがあるかも含めて宿にお確かめください。

温泉好きの方が脱衣所で最初に見るのは、たいていこの欄だと思います。ここを目当てに行く価値があります。

緑色に濁った大浴場の内湯(硫黄泉)|箱根・芦之湯 きのくにや

内湯の湯も、写真のとおり緑色に濁っています。分析書の「微濁淡黄緑色」がそのまま出ています。浴槽は広く、洗い場は5席ほど。天井はここも船底天井です。全体に古いですが、掃除は行き届いていました。

内湯は硫黄泉、露天風呂は重曹泉

大浴場の入口に、こんな案内が貼られていました。

大浴場の案内(内湯は硫黄泉・露天風呂は重曹泉)|箱根・芦之湯 きのくにや

内湯は「硫黄泉」 美肌効果で人気No1(掲示のまま)
露天風呂は「重曹泉」 重曹のぬめり感で柔らかな浴感

2本の源泉が、内湯と露天で振り分けられています。濁った硫黄泉に入りたいなら内湯、さらりとした重曹泉なら露天です。

※入浴後の感想には個人差があります。

内湯は時間制限なし。ただし露天風呂は22時まで

公式サイトには次の記載があります。

源泉のお風呂は内湯・露天の大浴場(御到着から翌日10時まで何時でもご入浴可)

ただし、実際に行ってみると露天風呂は22時で終わっていました。行ったのは22時を過ぎた時間で、見るだけになりました。雨も降っていたので、そこは仕方がないと割り切りました。

露天(重曹泉)に入りたい方は、22時より前に行ってください。

内湯のほうは、夜中でも朝でも入れます。スタッフが少ないぶん、この自由度は大きいと感じました。

内湯は、湯がすごい量で足されていました

実際に入ってみて驚いたのは、湯の投入量です。かなりの量が足され続けていました。結構ないい湯でした。

そして誰もいませんでした。貸し切り状態で、ゆっくり入ることができました。

これは芦之湯の大きな長所だと思います。観光客が少ないので、大浴場が空いています。箱根湯本や強羅の宿では、まず味わえない静けさです。

なお脱衣所にはレジオネラ属菌の検査証明書が掲示されていました(2025年3月6日検査・「大浴場 男」「男 露天風呂」ともに適合)。

効能(掲示のまま)

掲示されている泉質別適応症は次のとおりです。

  • 第6号:自律神経不安定症、不眠症、うつ状態、アトピー性皮膚炎、尋常性皮膚乾癬、慢性湿疹、表皮化膿症、末梢循環障害
  • 第11号:きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症

第6号には禁忌症もあります。「皮膚又は粘膜の過敏な人、高齢者の皮膚乾燥症」です。該当する方や体調に不安のある方は、現地の掲示を確かめ、必要なら医師に相談してください。

※温泉の効能・効果には個人差があります。また、ここに挙げたのは掲示されている泉質別適応症であり、医学的な効果を約束するものではありません。

きのくにやの貸切風呂は2つ──ただし「チェックイン時に頼む」が正解です

貸切風呂「正徳」「枯淡」の予約板|箱根・芦之湯 きのくにや

きのくにやには貸切風呂が2つあります。時間が違います。

名称 時間 料金 特徴
江戸風貸切風呂「正徳(SHOTOKU)」 30分 2,000円(1枠あたり) 江戸風の内湯。宿泊者専用
貸切「枯淡(KOTAN)」 45分 2,000円(1枠あたり) 半露天・シャワー付き・小さめの浴槽・1〜2人向け

枯淡のほうが15分長く、料金は同じです。料金は宿泊者が予約板で取る1枠(1組)あたりです。日帰り入浴の貸切は、公式サイトでは「おひとり2,000円(30分)」と1人あたりの表記になっています。

「正徳」は創業年の元号正徳五年(1715年)にちなむ名前と思われます。公式サイトによれば、創業当時の浴室を再現した江戸風呂です。

ロビーの予約板を見て驚いたのは、枠が朝6時台から深夜まであることです。

正徳 枯淡
昼・夕方 12:00〜19:15(10枠) 12:05〜19:50(8枠)
夕食後 19:30〜23:45(6枠) 20:05〜23:50(4枠)
朝 6:00〜9:30(5枠) 6:05〜9:50(4枠)

深夜23時台まで、そして朝6時から入れます。公式サイトには「最終は22時30分」とありますが、館内の予約板は23:45/23:50まで枠がありました。現地の表示のほうが新しいと思われます。

流れは、予約板から木札を取ってフロントに見せ、利用時間の5分前にバスタオルを持ってフロントへ行き、木札を返して鍵を受け取るというものです(館内の案内より)。

なお正徳の湯には「Private bath SHOTOKU is one of the best hot springs in Japan.」という紙が貼られていました。

貸切風呂は、予約できませんでした

夕方以降にフロントへ2度行き、チャイムも鳴らしました。誰も出てきませんでした。結果、予約できずに終わりました。

あとで公式サイトを見て、理由が分かりました。

貸切源泉風呂のご利用について……チェックイン時に承ります。

公式が「チェックイン時に」と明記しているのです。組合の公式情報にも「チェックイン時ご予約」と書かれています。

つまり、後から頼むことは想定されていません。チェックインのとき、案内されなくても自分から「貸切風呂をお願いします」と言ってください。これがこの記事でいちばん実用的な情報だと思います。

予約板を見たときは、ほとんどの時間が空いていて、時間を選べる状態でした。

💡 貸切風呂が無料になるプランも用意されています。30分2,000円×2回分と考えると、プランで取ったほうが得になることがあります。楽天トラベルで条件を見る

きのくにやの夕食──「お品書きのない」10品と、紀州の酒

夕食は18時から一斉です。楽天トラベルの施設情報にも「ご夕食の時間は18時00分のみとなります。それ以降ですとお夕食をご用意でない場合がございます」と明記されています。18時に間に合うように着いてください。

場所でつまずきました。「フロントの奥」と聞いて1階を探したのですが、食堂らしき部屋は真っ暗で見つかりませんでした。フロントに戻って聞き直したら、2階の一番奥でした。案内の表示がありません。

夕食の席(達磨の墨絵と和歌が刷られた敷紙)|箱根・芦之湯 きのくにや

部屋食ではなく食事処です。テーブルと椅子なので、正座が苦手な方でも大丈夫です。大広間で、仕切りを取れば50人は入る広さ。この日は仕切りを減らして1部屋に7名でした。

席に着くと、スタッフの方が着火マンで釜飯と鉄鍋に火をつけてくれます。そのときに食べ方の説明もありました。そしてお品書きが配られません。代わりに敷かれているのが、達磨の墨絵と和歌が刷られた紙でした。

二子山ゆ 頂きあれば みはるかす 湖は静けさ 朝霧たちこむ

二子山は芦之湯のすぐ南にそびえる山です。湖は芦ノ湖。朝霧──到着したときの濃い霧と、そのまま重なりました。お品書きの代わりにこれが置いてある、という趣向です。

出てきた順に10品

順 料理
1 黄色の冷製スープ(かぼちゃかとうもろこし)
2 炙った白身魚 一切れ(海苔の佃煮風・柚子胡椒・大葉)
3 豚バラの鍋(ズッキーニ・えのき・ミニトマト/ポン酢)
4 鶏の刺身に、酢漬けの野菜とカリフラワー
5 茶碗蒸し(海老・そら豆・柚子)
6 緑のシャーベット(口直し)
7 釜炊きの混ぜご飯(焼き魚・たけのこ・にんじん・しいたけ)
8 味噌汁(生麩・三つ葉)+香の物(浅漬け・みょうが)
9 川魚の唐揚げ+野菜の天ぷら+レモン
10 杏仁豆腐(小豆・クコの実)

ポン酢で食べる豚バラの鍋|箱根・芦之湯 きのくにや

釜炊きの混ぜご飯|箱根・芦之湯 きのくにや

いちばんおいしかったのは豚バラの鍋でした。ポン酢で食べる、それだけの料理ですが、肉がよかったです。

器がすべて違います。織部、青磁、九谷、備前、ガラス。古い旅館らしい設えでした。

一品ずつは少なく見えて「量が足りるかな」と思ったのですが、少しずつ出てくるので、最後にはしっかり満腹になりました。食事時間は45〜50分です。

全体として、とてもおいしくいただきました。気になったのは味噌汁の味が薄かった一点だけです。

配膳は高齢の男性スタッフがひとりでこなしていました。料理を運ぶのも、注文を受けるのも。厨房も、見えた範囲ではひとりでした。

飲み物に、紀州の酒が置いてある

飲み物のメニュー(紀伊国屋文左衛門を含む)|箱根・芦之湯 きのくにや

飲み放題はありません。すべて別料金です。

品目 価格
瓶ビール(中瓶) 800円
箱根献上ビール(330ml) 800円
熱燗 一合(箱根山 上撰/井上酒造) 600円
冷酒(箱根山 純米・180ml/井上酒造) 900円
四季の箱根 純米吟醸(300ml/中沢酒造) 1,500円
紀伊国屋文左衛門 純米(300ml/和歌山) 1,500円
小田原梅クラフト酎ハイ/湘南ゴールドサワー 各800円
ワイン ハーフ ポレール「箱根ラベル」赤・白 各1,600円
ソフトドリンク(小田原みかんサイダーなど) 300〜400円

熱燗が600円。旅館としては高くありません。

そして注目してほしいのが、「紀伊国屋文左衛門」という和歌山の酒です。

きのくにやは、紀州徳川家の血を引く家が創業し、屋号も紀州に由来する宿です(歴史の章で書きます)。その宿が、和歌山の「紀伊国屋文左衛門」を置いている。偶然とは思えません。

地産マークが付いているものは、すべて箱根と小田原のものでした。井上酒造、中沢酒造、小田原の梅、湘南ゴールド、小田原みかん。「箱根と小田原のものしか置かない」という方針が読み取れます。

きのくにやの朝食──焼き魚は温かい。ただし「いつ終わりか」の案内がありません

朝食は8時、場所は夕食と同じ広間です。顔ぶれも前の晩とほとんど同じでした。ひとり分だけ、膳が出ているのに途中で下げられていました。先に発たれたのだと思います。

配膳された直後の朝食の膳と、アジの開きを焼く卓上の焼き台|箱根・芦之湯 きのくにや

朝食のお膳全体(アジの開き・温泉卵・納豆・なすの煮物)|箱根・芦之湯 きのくにや

品 中身
焼き魚 アジの開き。卓上の固形燃料で焼く
なす 煮物。皮つきで煮汁あり。生姜をのせて
温泉卵 出汁のつゆ入り
納豆 刻みネギを添えて
しらす 大葉を敷いて
明太子 ひと口分
ごぼう 千切りを煮たもの
漬物 きゅうり、梅干し
味噌汁 渦巻き模様の麩が2つ
ご飯 おかわりできます(ただし後述)
デザート オレンジが2切れ

焼き魚は、卓上で自分で焼きます

膳に、固形燃料の上に鉄板をのせた焼き台が付いてきます。のっているのはアジの開きが一尾。火が入った状態で出てくるので、焼けるのを待って、自分で焼きながら食べます。

卓上の固形燃料で焼くアジの開き|箱根・芦之湯 きのくにや朝食

これがよかったです。目の前で焼くので、当然ながら温かい。身をほぐし、骨のところはさらに焼いてカリカリにして、ほぼ全部食べました。朝食でいちばんよかったのはここです。

ただ、主役になる食材は、この魚となすくらいでした。品数のわりに、食べでのあるものが少ないという印象です。

とはいえ、食べ終わるとふつうに満腹になりました。見た目は少なめでも、朝食としてはちょうどいい量なのかもしれません。

配膳は2人。ただし膳を置いたあとは、ほとんど来ません

朝は、前の晩に配膳してくださった高齢の男性に加えて、高齢の女性がもうひとりいて、2人体制でした。夕食よりひとり多い体制です。

ただし膳を運んでくるところまでで、そのあとはほとんど席に来ません。そのため、ご飯のおかわりを頼むタイミングがありませんでした。隣の席の方には「ご飯のおかわりはいりますか」と声がかかっていたのですが、こちらには声がかからず、呼び止めることもできないまま、結局おかわりできませんでした。

おかわりしたい方は、膳が来たときに先に伝えておいてください。あとから頼もうとすると、人がつかまりません。

最後にデザートが出ます。知らないと食べ逃します

朝食には最後にデザートが付きます。ところが献立が知らされないので、何がいつ出てくるのか見当がつきません。

実際この日は、同じ広間にいた3人が、デザートの出る前に席を立って行かれました。たまたまゆっくりしていたので、配膳の方が持ってきてくれました。デザートが出たら終わり、と思っていいと思います。それまでは席を立たないでください。

朝食のデザート(ガラスの器のオレンジ・1切れ食べたあと)|箱根・芦之湯 きのくにや

この日のデザートはオレンジが2切れでした(写真は1切れ食べたあとのものです)。なお、食後のコーヒーのようなものはありません。

気になったのは料理ではなく、「終わりが分からない」こと

朝食でいちばん引っかかったのは、味でも量でもありません。お品書きがなく、締めの案内もないので、食事がどこで終わるのかが分からないことでした。いつ席を立っていいのかが、最後まで分からないままでした。

楽天トラベルの評価が3.67とやや控えめなのは、こういうところではないかと思います。料理の問題ではなく、案内がないことのほうです。

サービスの実際──どの場面でも、出てくるのはひとりずつ

ここまで「フロントに人がいない」「案内がない」と何度か書きました。これらは全部、ひとつの原因から出ています。

分かったこと

  • 到着したとき、入っても誰も出てきません。呼び鈴を鳴らす必要があります
  • 出てきたのは高齢の男性スタッフ1名。その方が部屋まで案内してくれました
  • 鍵を2本渡されましたが、形の違う2本が何なのか説明がありません
  • 食事の時刻と場所の説明がありません。「何時にどこへ行けばいいのか」はこちらから聞きました(ただし食事の席では、火をつけながら食べ方を説明してくれました)
  • 案内の方も19時ごろまでで、「あとは夜の人に引き継ぎます」とのことでした

そして、こういうことでした。

  • この宿は館内図によれば計40室(本館26室+別館遊仙観14室)。ただし楽天トラベルで予約できる客室タイプは3種類だけでした(吉昇亭・春還楼・離れ日々亭)
  • この日夕食の席にいたのは5組(男性のひとり客が3人、女性2人組、男女1組。外国からのお客も半分でした)。ただしこれは夕食付きプランの人数です。きのくにやには素泊まりのプランもあり、その方は食事処に来ません。実際の宿泊者はもう少し多いはずです
  • 別棟がもう1棟ありますが、真っ暗で予約検索にも出てきません。通路には蜘蛛の巣が張っていました
  • 2026年9月13日に楽天トラベルで先の日付を11日分調べたところ、空室が出たのは9日。2日は在庫なしでした。小さな宿なので、行きたい日が決まっているなら早めに押さえたほうが確実です

フロントに出てきたのはひとり、配膳をしてくれたのもひとり、厨房で見えたのもひとり。それぞれの場面で、対応してくださる方はひとりずつでした。

※宿全体でスタッフがひとり、という意味ではありません。会えた範囲での話です。夜は別の担当者に引き継ぐと聞きましたし、見えないところで動いている方もいるはずです。

ただ、その場に手が1組しかないと考えると、到着時の呼び鈴も、説明の少なさも、貸切風呂が頼めないことも、全部つながります。

だから、こうしてください

  1. チェックインのときに、貸切風呂を予約しておく
  2. 食事の時刻と場所を、その場で聞いておく
  3. 客室露天の加温を頼むなら、到着時に言っておく
  4. 何か頼みたいことは、人がいる時間(チェックイン時・食事の時間)にまとめて伝える

これだけで、この宿の印象はかなり変わると思います。

ひとり旅には向いています

食事処にはひとり客が何人もいました。ひとりで泊まるのに、この宿はまったく問題ありません。

静けさは、はっきり長所です

館内はきわめて静かです。スタッフが少ないので、人の声も足音もしません。これがこの宿のいちばんの長所だと感じました。

なお雨の日は部屋を出てすぐの屋外がよく滑ります。2回転びかけました。足元に気をつけてください。

費用とプラン

2026年9月13日に楽天トラベルで調べた、プランごとの平均価格です(2名1室1泊・税込の総額)。冒頭に書いた「1泊2食ひとり16,210円〜」は組合公表のひとり単価(税込)なので、この表の金額とは数え方が違います。日付を散らして11日分を調べ、そのうち空室が出た9日の平均を出しました(2日は在庫なし)。

部屋 プラン 平均
(最安〜最高)
春還楼
(和室/トイレ・バス付)
素泊まり 36,539円
28,946〜41,962円
吉昇亭
(和室/トイレ付)
素泊まり 39,101円
32,312〜41,962円
春還楼
(和室/トイレ・バス付)
1泊朝食付 42,934円
36,352〜47,124円
吉昇亭
(和室/トイレ付)
1泊朝食付 43,982円
36,352〜47,124円
春還楼
(和室/トイレ・バス付)
1泊2食 47,796円
40,392〜52,508円
吉昇亭
(和室/トイレ付)
1泊2食 48,015円
39,600〜51,480円
離れ【日々亭】 離れ・露天風呂付
(2食)
85,077円
69,300〜89,980円

※プラン名は楽天トラベルの表記を短縮しています。正式なプラン名と最新の空室は楽天トラベルでご確認ください。

日ごとの最安値の平均は 43,682円(28,946〜89,980円)でした。

この表で分かることが2つあります。

1つは、素泊まりが選べること。いちばん安いのは春還楼の素泊まりで平均 36,539円。芦之湯には食事処がないので夕食には困りますが、「湯だけを目的に来る」なら選択肢になります。楽天トラベルのプラン名は「【素泊まり】温泉三昧!お仕事後の遅いチェックインにも御対応★朝までずーと自噴硫黄泉ご満喫!」でした。

もう1つは、離れ【日々亭】の値段です。平均 85,077円(69,300〜89,980円)。ほかのプランの約2倍です。今回泊まったのもこの部屋です。客室露天風呂を目的にするなら、この価格帯を見込んでください。

※価格は日によって大きく動きます。上の数字は2026年9月13日時点の目安です。実際の空室と料金は楽天トラベルでご確認ください。

💡 空室と料金は日によって大きく動きます。楽天トラベルのきのくにやのページで、行きたい日を入れて確かめるのが早いです。

参考までに、公表されている料金の幅は次のとおりです。

  • 箱根温泉旅館協同組合の公表:1泊2食 平日 14,740円〜82,720円(税込 16,210円〜90,990円・2026年9月16日時点)
  • 公式サイトの直販セール:2食付き・お日にち限定の宿直販プランで「2名1室 17,820円〜」(公式サイトの表記のままで、1名あたりか1室あたりかは書かれていません。2026年10月3日時点)
  • 楽天トラベルの最安表示:12,903円〜(大人1名あたり・税込。食事条件はプランにより異なり、2食付きの最安ではありません。2026年9月16日時点・日によって変わります)

忘れてはいけないのが入湯税です。別途150円かかります。宿泊料金には含まれていません。

駐車場は無料です(台数は楽天トラベル40台・箱根町観光協会50台と資料で異なります)。車で行く場合の追加費用はかかりません。

今回泊まったのは露天風呂付きの離れ【日々亭】なので、下限の価格帯ではありません。楽天トラベルに出てくる露天風呂付きは日々亭の1タイプだけなので、狙うなら早めに動いてください。

貸切風呂が無料になるプランについては、貸切風呂の章に書きました。

🎁 神奈川県箱根町のふるさと納税

きのくにやのある芦之湯温泉は箱根町にあります。町への寄付で、地域の自然・文化財の保全に貢献できます。この記事で触れた東光庵(箱根町指定史跡「東光庵熊野権現旧跡」)も、町が指定して守っている史跡です。

▶ 楽天ふるさと納税で神奈川県箱根町を見る

きのくにやはどこにあるか──箱根湯本からバス約30分・990円

宿名 芦之湯温泉 美肌の湯 きのくにや(本館)
所在地 神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯8番地
電話 0460-83-7045
最寄バス停 箱根登山バス「芦の湯」(国道1号沿い)から徒歩1〜2分・ほぼ平地
チェックイン 15:00 / チェックアウト 10:00
駐車場 あり・無料(楽天トラベルは40台、箱根町観光協会は50台と資料で異なります)
送迎 ありません
標高 約850m(館内掲示「山中850mの高地」)

芦之湯は箱根七湯のひとつで、現在ここに宿は2軒だけです(箱根町観光協会の公表)。国道1号沿いに宿が点在するだけで、商店の並ぶ温泉街はありません。標高850mの高原の盆地に、古い旅館が2軒残っている——それが今の芦之湯です。

きのくにやは神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯8番地。館内掲示は「山中850mの高地」と記しています。日本温泉協会は芦之湯を「周囲を1,000m前後の山に囲まれた高原性の小盆地」と紹介しています。

実際に通った経路は次のとおりです。

電車でのアクセス

区間 手段 所要時間 費用
池袋 → 小田原 湘南新宿ライン 約1時間30分 -
小田原 → 箱根湯本 小田急ロマンスカー 約15分 追加200円で乗れます
箱根湯本 → 芦の湯 箱根登山バス 約30分(実乗は約40分) 990円
芦の湯バス停 → 宿 徒歩 1〜2分 -

所要は時刻表で約30分、昼間は15分おきに出ています。乗った日は雨で、渋滞もあって約40分かかりました。

乗るバスを間違えないことが、いちばん大事です。

箱根湯本駅の2番のりばから、「小涌園・元箱根港経由 箱根町港」行きに乗ります。系統は箱根町線(H)です。

同じ2番のりばからは「箱根新道線(R・急行)」も出ていますが、こちらは芦の湯を通りません。行き先表示に「小涌園経由」があるかを確かめてください。

箱根湯本駅2番のりば(芦の湯へ向かう箱根登山バスの乗り場)|箱根・芦之湯 きのくにや

バス停から宿までは、ほぼ目の前

国道1号沿いの芦の湯バス停|箱根・芦之湯 きのくにや

芦の湯バス停から宿までは徒歩1〜2分。しかも平地です。坂を上る必要はありません。バス停の目の前にあると言っても、大げさではない距離です。

宿の送迎はありません。ただ、この距離なら必要ないと感じました。

なお、芦の湯には箱根登山バス(赤)のほかに、伊豆箱根バス(緑)も停まります。伊豆箱根バスは元箱根経由で箱根関所跡方面・箱根園方面へ行きます。片方が来なくても、もう片方で動けます。

時刻表そのものは、記事のいちばん最後に往路・復路とも全便まとめて載せました。→ 出発前の最終確認(全時刻表)へ。行く日が決まったら、そちらをご覧ください。

芦之湯という場所──コンビニはない。でも「何もない」わけではない

バスを降りて、まず感じたのはにおいでした。硫黄のにおいが、はっきりします。歩いているだけで分かるくらいです。

到着した日は濃い霧がかかり、小雨も降っていました。標高850mの土地で、夏でも涼しく、霧はこの場所の日常だと思ってください。

霧に包まれたきのくにや旅館の外観|箱根・芦之湯 きのくにや

翌朝のきのくにや旅館の外観(霧が薄れた状態)|箱根・芦之湯 きのくにや

こちらは翌朝です。雨は降っていましたが、霧が薄れて建物の全体が見えました。上の写真と同じ場所です。白い3階建てが本館で、車寄せの下が玄関です。

旅館は2軒

芦の湯温泉入口の道標|箱根・芦之湯 きのくにや

国道1号沿いに古い道標が立っています。上から「芦の湯温泉入口/史跡 東光庵入口」、そして「松坂屋本店」「きのくにや旅館」「山形屋旅館」「民宿◯」と並んでいます。

ただし箱根町観光協会の公式サイトには「現在、芦ノ湯温泉の旅館は2軒」と書かれています。道標に残る山形屋旅館と民宿は、公式の宿一覧には出てきません。

つまり今の芦之湯は、松坂屋本店ときのくにやの2軒です。温泉地としての来歴は芦之湯温泉ガイドにまとめています。

買い物と食事はできません

  • コンビニはありません
  • 食事処もありません
  • 食べ物の調達も難しいです

バスを降りて歩いても、観光的なことはできません。宿から出ない前提で行く場所だと考えてください。

ただし、徒歩圏に史跡が集まっている

「何もない」と書かれることが多い芦之湯ですが、それは正確ではありません。歴史散策コースが木道つきで整備されています。

歴史散策コース「芦之湯三碑」の道標|箱根・芦之湯 きのくにや

東光庵、熊野神社、薬師堂、芭蕉の句碑、阿字ヶ池、弁財天。徒歩圏にこれだけあります。詳しくは後の章で書きます。

1715年からの歴史──紀州徳川家の血筋と、国道1号のもとを発起した七代目

館内には、第12代主人による解説の掲示が出ています。これが非常に濃い内容でした。

第12代主人によるきのくにやの解説掲示|箱根・芦之湯 きのくにや

「葦の海」から「芦之湯」へ

掲示は1280年から始まります。

芦之湯の起源は1280年に飛鳥井政有の「春の深山路」文中に「葦の海の湯とて温泉もありまかふしぎなり」とこの地を紹介したこ
とで、後にそれが語源となり現在の「芦之湯」の名称となります。

※「飛鳥井政有」は掲示の表記のままです。正しくは飛鳥井雅有(あすかい まさあり)で、『春の深山路』は1280年(弘安3年)の紀行です。

この記述は、町の説明板で裏付けられます。後述の阿字ヶ池の説明板に、「昔、この辺一帯は、満々と水をたたえ、『あしのうみ』と呼ばれていました」とあるのです。

葦の海 → 芦之湯。宿の掲示と行政の説明板が一致しました。

創業1715年・紀州徳川家の血筋

館内にはもう1点、新聞連載「神奈川のれん物語」の複写も掲示されています。見出しは「グラント将軍も来泊」「紀州徳川家の血を引く」。

そこから分かる創業の経緯は次のとおりです。

事項 内容
創業 正徳五年(1715年)十一月
創業者 川辺段右衛門貞次の三男・忠蔵
出自 紀州藩主 徳川頼宣の庶子・小島主膳正の子、川辺兵衛尉家次が祖
屋号の由来 紀州の出身だから「紀伊国屋」→「きのくにや」

川辺家はもともと相州酒匂(小田原市)に領し、代々「酒石衛門」を名乗って栄えた家でした。その三男が芦之湯に来て宿を開いた、というのが始まりです。

「きのくにや」という屋号は、紀州から来たという意味だったのです。夕食の酒に「紀伊国屋文左衛門」が並んでいた理由も、これで分かります。

明治12年の宿の姿と、泊まった人たち

館内の窓辺に、古い図と絵葉書が無造作に置かれていました。これがよかったのです。

1879年(明治12年)5月の紀伊國屋。駕籠と洋装の人物が行き交う|箱根・芦之湯 きのくにや

絵の右下に「1879 MAY」と入っています。明治12年5月です。作者のサインは筆記体で読み取れませんでした。

見てください。看板が3つ出ています。

  • 「内湯 紀伊國屋」(縦の大看板)
  • 「きのくにや」(袖看板)
  • 「KINOKUNIYA HOTEL」(英字の看板)

明治12年の時点で、すでに英字看板を掲げています。絵の中には駕籠をかつぐ人足と、山高帽に洋装の人物が同じ画面に描かれています。外国人客を迎えていたことが分かります。前章の掲示にあるグラント将軍(第18代アメリカ大統領)が来日したのも1879年(明治12年)で、この絵と同じ年です。ただし、将軍がこの宿を訪れた時期は掲示に書かれていません。

古絵葉書「相州箱根芦の湯温泉旅館紀伊國屋」|箱根・芦之湯 きのくにや

もう1枚は古い絵葉書です。下にこう刷られています。

相州箱根芦の湯温泉旅館紀伊國屋(電話宮の下三番)
Kinokuniya Hotel, Ashinoyu hot spring

電話が「宮の下三番」。電話がまだ番号3つで足りた時代です。年代は書かれていません。

では、この宿には誰が来たのか。掲示によれば、明治以降ここに来た人は次のような面々です。

  • 明治天皇(公式サイトには「明治天皇御駐輦之所のご名誉を頂き」とあります)
  • 勝海舟・西郷隆盛(掲示は「箱根にて」とあり、この宿に来たとは書かれていません。後述の海舟揮毫のことと思われます)
  • グラント将軍(第18代アメリカ大統領)
  • 副島種臣(書家として知られた明治の政治家。東光庵の賀茂真淵歌碑に心打たれ、芦之湯に多くの書を残したとあります)
  • 志賀直哉(新聞記事には「常連の一人」と書かれています)
  • 美空ひばり・山下清・魯山人(掲示は「美空ひばりを頂点に大勢の俳優や山下清・魯山人など芸術家も芦之湯に押し寄せました」とあります)

掲示はそのあと「平成になると各地の観光地が台頭し、芦之湯は暫し知名度を失います」と続きます。

さらに、作曲家の滝廉太郎が当地で「箱根八里」を作曲したという記述もあります。

ただし、ここは慎重に書きます。「箱根八里」(作詞 鳥居忱/作曲 滝廉太郎)は、明治34年3月発行の『中学唱歌』の編集にあたり、作詞を公表して作曲を一般から公募し、そこに提出された滝廉太郎の曲が採用されたものです(国立国会図書館 レファレンス協同データベース)。調べた範囲では、芦之湯で作曲されたことを示す公的な記録は見つかりませんでした。

この一文は「館内掲示にそう書かれている」という事実として読んでください。滝廉太郎が芦之湯に滞在したかどうかも含め、裏づけは取れていません。

国道1号を通したのは、きのくにやの七代目でした

いちばん驚いたのは、この事実です。

新聞記事にこうあります。

もっとも、この国道開発発起人は、きのくにや七代目の川辺儀三郎であった。……第一国道は明治三十五年に着工、
工事は難行を極めたが、日露戦争の始まった同三十七年五月に開通した。

いまバスで通ってきた国道1号のもとになった道(明治37年開通の人力車道)は、この宿の七代目が発起人だったと新聞記事は書いています。同じ記事は、工事を進めたのは六代目の長男で松坂屋に養子に入った松坂万右衛門だとも書いています。

そして皮肉なことが起きます。道がよくなったことで、人は芦之湯に泊まらなくなったのです。箱根湯本でも各地でも温泉は湧いています。わざわざ山を越える必要がなくなりました。

自分たちが通した道が、結果として芦之湯を素通りさせた。──掲示にそう書かれているわけではありませんが、事実を並べるとそう読めてしまいます。

なお新聞記事によれば、この工事のためにきのくにやは財産をすりへらし、その後は地震・火災などの災害が続いたとのことです。

女将の実家は、京都の老舗でした

館内に「姉妹店のご紹介」という掲示があります。京都の山ばな平八茶屋を紹介したものです。

姉妹店 山ばな平八茶屋の掲示(魯山人に因む)|箱根・芦之湯 きのくにや

魯山人と一緒に写った写真のキャプションに、こう書かれていました。

平八茶屋を訪れた際に撮影された、魯山人とのスナップ。奥に立つ方は先代の女将さんです(きのくにや女将の母)。
昭和32年ころ、魯山人の好んだ川沿いの部屋で。

きのくにやの女将の母は、京都・平八茶屋の先代女将。掲示にある「魯山人も芦之湯に集った」という話が、これで腑に落ちました。

廊下は、ほとんど美術館です

館内に掛かる青富士の額|箱根・芦之湯 きのくにや

館内の廊下には、美術品がずらりと並んでいます。聞いたところ、前のオーナーが集めたものと、泊まった方々から寄贈されたものだそうです。

金の額に入った青い富士の絵には「〔片〕岡球子/青富士」という札が付いていました(1文字目は札の端で読めませんでした)。

寄贈で増えていった宿の美術品という成り立ちそのものが、この宿を語っていると思います。

館内には芦之湯観光協会が平成7年(1995年)に出した解説パネルも掛かっています。そこに、きのくにやのことがこう書かれていました。

さながら私立博物館
きのくにやと松坂屋本店の両館はいずれも江戸時代前半の創業。東光庵の常連たちも逗留した歴(れっき)とした老舗だ。客室、ロビー、資料館等には、江戸・明治の書画骨董のほか、維新の立役者たちの揮毫(きごう)や宿帳などがさり気なく置かれていて、歴史好きには堪(こた)えられない。
──勝海舟揮毫・木戸孝允揮毫・西郷、木戸会見碑・滝廉太郎「箱根八里」作曲記念碑・乃木大将直筆署名ほか。

同じパネルの写真キャプションには、「海舟揮毫『懐抱古今』── きのくにや蔵」とありました。前章に書いた「勝、西郷」という掲示の記述は、この揮毫のことだと思われます。

ただし、これは平成7年の記述です。31年前の資料なので、いま同じものが同じ場所に置かれているとは限りません。廊下で見かけたのは絵画が中心で、揮毫の類は見つけられませんでした。見たい方は、宿に尋ねてみてください。

歩いて行ける史跡──東光庵、ドイツ兵が掘った池、知恩院から来た薬師堂

芦之湯には箱根町指定の史跡があります。宿から歩けます。

東光庵(箱根町指定史跡)

箱根町指定史跡 東光庵(茅葺き)|箱根・芦之湯 きのくにや

茅葺きの庵です。霧の日に訪ねると、これがなかなかの眺めでした。

東光庵熊野権現旧跡の説明板|箱根・芦之湯 きのくにや

現地の説明板(箱根町指定史跡「東光庵熊野権現旧跡」・昭和40年11月30日指定)には、こう書かれています。

  • 芦之湯は文化・文政期(1804〜1830)、文人・墨客が湯治のかたわら熊野権現の境内に建てられた東光庵薬師堂に集まり、句会や茶会を楽しんだ
  • 境内に残る歌碑などから知られる人物:清水浜臣(国学者・歌人)、賀茂真淵(1697〜1769。文化・文政期より前の人物です)、蜀山人、山本北山(儒学者)
  • 絵師も訪れており、その代表が浮世絵師 安藤広重
  • 地元芦之湯の文人は、湯宿「伊勢屋」の主人 勝間田茂野と松坂屋の主人 松坂賢全

芦之湯にはかつて「伊勢屋」という宿があり、その主人が江戸の文人と交流していた。しかも勝間田という姓は、寛文2年に芦之湯を開いた勝間田清左衛門と同じです。

注意してほしいのは、いまの東光庵は平成13年(2001)の復元だということです。江戸の建物そのものではありません。

なおこの再建に関わった初代庵主は、中曽根康弘元首相でした。庭の白萩の説明板にそう書かれています(元和9年に伊達政宗が大悲願寺の白萩を所望した由緒を引き、平成13年に中曽根が大悲願寺から譲り受けて株分けした、という内容です)。

芭蕉の句碑

文化12年建立の芭蕉句碑|箱根・芦之湯 きのくにや

書物を開いた形の石碑があります。

しばらくは花のうへなる月夜哉 芭蕉翁
建立 文化十二(一八一五)年
建碑者 大磯鴫立庵主 遠藤雉啄(鴫立庵の第9代庵主)

芭蕉本人が芦之湯に来たわけではありません。文化12年に、大磯の俳人が建てた句碑です。館内の掲示(第12代主人の解説)にある「芭蕉の歌碑」はこれです。

阿字ヶ池──ドイツ兵が掘った池

阿字ヶ池の説明板(ドイツ兵が掘った防火用水池)|箱根・芦之湯 きのくにや

宿の並びに池があります。説明板を読んで驚きました。

昔、この辺一帯は、満々と水をたたえ、「あしのうみ」と呼ばれていました。
江戸時代のはじめ寛文年間(一六六二年頃)にこの水を東側の二方の谷に落して干拓が行われ、
芦之湯の温泉場がひらけたのです。

第二次世界大戦中、芦之湯には同盟関係にあったドイツ軍部隊が駐屯しておりました。この池は空襲に備え、
村の防火用水池とするため、ドイツ兵士の汗と奉仕によって堀られたものです。

戦時中、この山の上にドイツ軍が駐屯していた。そしていま見えている池は、ドイツ兵が掘ったものなのです。

池の名は、干拓当時に周囲に葦が茂っていたことから「葦の池」と呼ばれ、それがなまって「阿字ヶ池」になったとのことです。

霧のかかる阿字ヶ池|箱根・芦之湯 きのくにや

葦の海 → 干拓して温泉場 → ドイツ兵が掘った池。この土地の水の歴史が、1枚の説明板でつながります。

薬師堂──京都・知恩院から来た堂

松坂屋本店所有の薬師堂|箱根・芦之湯 きのくにや

木造の小さな堂です。標柱には「薬師堂」、その脇に小さく「松坂屋本店所有」とあります。隣の旅館の所有物です。

薬師堂の由来を記した説明札|箱根・芦之湯 きのくにや

堂に掛かった札の内容が、これまた驚くものでした。

この薬師堂は徳川家康の四女「徳姫」の霊堂として、京都 知恩院に寄進された薬師堂。
その後三井家大番頭 益田鈍翁の別荘に移築され、更に益田家のご好意で当館の所有となりました。
お薬師様は衆生の病気を直す如来です。

益田鈍翁(益田孝)は三井物産の初代社長で、近代を代表する茶人です。京都・知恩院 → 益田鈍翁の別荘 → 松坂屋本店という来歴でした。

なお掲示は「家康の四女」としていますが、知恩院の徳川家の霊屋としては督姫(家康の次女)の良正院が知られています。ここは掲示の文言をそのまま引いておきます。

弁財天と、芦之湯三碑

芦之湯 弁財天の朱塗りの鳥居|箱根・芦之湯 きのくにや

すすきの原の先に、朱塗りの鳥居があります。箱根七福神めぐりの弁財天です。蛇身の女性の石像が祀られていると伝えられます。

そのほか「芦之湯三碑」という道標も立っていました。弁天山の麓の朝日丘にある恩人碑・あす宣言の碑・朝日丘旧石器遺跡の碑の3つで(芦之湯観光協会は「朝日丘三碑」と呼んでいます)、くわしくは芦之湯温泉ガイドに書いています。

きのくにやの日帰り入浴と、温泉の持ち帰り

泊まらなくても、この湯には入れます。

日帰り入浴

公式サイトの記載は次のとおりです。

項目 内容
入浴料 大浴場 おひとり 1,500円/貸切温泉 おひとり 2,000円(30分)
貸切の扱い 宿泊者優先
営業日・時間 平日(火・水曜日以外)12:00〜17:00/休日 12:00〜14:00
タオル バスタオルレンタル・タオル販売あり

火曜・水曜は日帰り入浴はお休みです。

ただし注意点があります。公式サイトのお知らせ欄には、日ごとの営業予定が別に掲示されていて、時間が違うことがあります(2026年9月分は12:00〜19:00でした)。

しかも公式にこう書かれています。

混雑状況等で日帰りのお客様のご入浴をご調整させて頂く場合もございます。ご来館前に、お電話でお問い合わせください。

行く前に電話(0460-83-7045)で確認してください。これが確実です。

温泉を持ち帰れます

これはあまり知られていないと思います。旅館直営の箱根温泉販売所「宝蔵」で、温泉そのものを売っています。

温泉スタンド「宝蔵」(自然湧出硫黄泉・セルフ式)|箱根・芦之湯 きのくにや

宿の並びにある小屋で、タンクと配管と蛇口、そして料金箱という作りです。完全なセルフ式で、「料金箱にお金を入れてから給湯してください」と書かれています。防犯カメラも付いていました。

掲示には、こんな一文もありました。

温泉は有料ですが、心無いお客様がいらっしゃる為、お手間をお掛け致しますが、ご協力をお願い致します。

払わずに持って行く人がいるということです。きちんと料金箱に入れてください。

温泉販売所セルフスタンドの料金と注意事項(20L 500円・1回80Lまで)|箱根・芦之湯 きのくにや
項目 内容(掲示のまま)
料金 20L当たり 500円(販売単位20L)。料金は料金箱へ
1回の上限 硫化水素ガス含有の為 80Lまで
営業 24時間(公式サイト)
宅配 20L 5,000円+送料/10L 3,000円+送料(5L入りの温泉パックで発送)

持ち帰る前に読んでおきたい注意

掲示に5つ書かれています。どれも大事なので、そのまま引きます。

※硫化水素ガス等が含有しているため、十分な換気の上、ご使用ください。

※禁忌症及び入浴上の注意事項をご確認ください。

※温泉成分による、給湯器や浴槽などの腐食や故障につながる可能性が有りますので十分注意してご使用ください。

※給湯後は、速やかにご使用ください。また、衛生上溜水等せずご使用ください。

※飲用には適していません。浴用としてご使用下さい。

飲めません。そして給湯器や浴槽を傷める可能性があります。追い焚き機能のある浴槽で使うと配管を痛めることがあるので、入れっぱなしにせず、使ったら流すのが無難です。換気も必要です。

スタンドの掲示にも温泉分析書が出ていました。源泉は大浴場の内湯と同じ「芦之湯 第6号」です。ただし1か所だけ違います。

使用位置の温度が34.7℃。大浴場は加温して41.0℃でしたが、スタンドは源泉のままです。つまり持ち帰れるのは、加温も加水もしていない34.7℃の硫黄泉そのものということになります。

公式サイトには「神奈川県内の硫化水素含有の温泉スタンドは当館のみ(自社調べ2022年現在)」とあります。

自然湧出を見られる場所があります

自然湧出の湯口(石の湯船に白い析出物が厚く付着)|箱根・芦之湯 きのくにや

敷地には、石の湯船に木の樋から湯が注がれ、あふれ続けている場所がありました。黒い板に「きのくにや 自然湧出硫黄泉」と書かれています。

見てほしいのは湯船の縁です。白い析出物が厚く垂れて固まっています。長い年月、同じ湯が流れ続けた跡です。湯は緑色。「自噴している」という話が、ここでいちばんはっきり見えます。

よくある質問

Q. きのくにやはどこにありますか?
A. 神奈川県足柄下郡箱根町芦之湯8番地です。箱根湯本駅の2番のりばから「小涌園経由 箱根町港」行きの箱根登山バスで約30分、990円。「芦の湯」バス停で降りて徒歩1〜2分です。送迎はありません。

Q.「芦之湯」はどう読みますか?
A.「あしのゆ」です。昔この一帯が「葦の海(あしのうみ)」と呼ばれていたことが語源とされています。

Q. 日帰り入浴はできますか?
A. できます。大浴場おひとり1,500円、貸切温泉おひとり2,000円(30分・宿泊者優先)。平日(火・水曜日以外)12:00〜17:00、休日12:00〜14:00が基本です。ただし日によって時間が変わるため、行く前に電話(0460-83-7045)での確認をおすすめします。

Q. 泉質は何ですか?
A. 源泉が2本あります。ひとつは単純硫黄温泉(硫化水素型)・源泉34.7℃で、微濁淡黄緑色・硫化水素臭。もうひとつは硫酸塩・炭酸水素塩温泉・源泉68.3℃で、無色透明無臭です。どちらも加水していません。

Q. 客室露天風呂はぬるいと聞きました。
A. 硫黄泉の源泉が34.7℃なので、もともとぬるい湯です。加温した同じ源泉を足して41℃前後に保つ仕組みです。泊まった日は、夕方は39〜40度くらいでぬるく感じ、夜には上がっていました。入れない温度ではありません。気になる方は到着時に伝えておくとよいと思います。

Q. 貸切風呂はいつ予約すればいいですか?
A. チェックインのときです。公式サイトにも「チェックイン時に承ります」と明記されています。後から頼もうとしても、フロントに人がいない時間があります。頼みごとは人がいる時間にまとめて伝えるのがコツです(サービスの実際)。

Q. ひとりでも泊まれますか?
A. 泊まれます。食事処にはひとり客が何人もいました。食事は部屋食ではなく、テーブルと椅子の食事処です。

Q. コンビニや食事処は近くにありますか?
A. ありません。芦之湯にはコンビニも食事処もなく、食べ物の調達も難しいです。宿から出ない前提で行ってください。

Q. チェックインとチェックアウトは何時ですか?
A. チェックイン15:00、チェックアウト10:00です。最終チェックインは17:30。楽天トラベルの施設情報には「ご到着予定時刻は、15時から17時位でお願いします」とあります。なお玄関は23時以降クローズです。

Q. 駐車場はありますか?
A. あります。無料(台数は楽天トラベル40台・箱根町観光協会50台と資料で異なります)です(楽天トラベルの施設情報)。

Q. 送迎はありますか?
A. ありません。ただし芦の湯バス停から宿までは平地を徒歩1〜2分です。

Q. 入湯税は別ですか?
A. 別途150円かかります(楽天トラベルの施設情報)。宿泊料金に含まれていません。

Q. 夕食と朝食は何時ですか?
A. 夕食は18:00のみです。楽天トラベルの施設情報には「それ以降ですとお夕食をご用意でない場合がございます」と明記されています。朝食は8:00の案内です。食事場所は朝夕ともに広間です。

Q. 子連れでも大丈夫ですか?
A. 館内には卓球があり、囲碁と将棋は無料で貸し出しています。茶室もあります。貸出用車椅子もあるため、足の不自由な方にも配慮があります。ただし周囲にコンビニや食事処がないため、小さなお子さん連れの場合は必要なものを持参してください。

Q. 喫煙できますか?
A. 客室は全室禁煙です。ロビー前に喫煙室、中庭に喫煙所があります(楽天トラベルの施設情報)。

Q. クレジットカードは使えますか?
A. VISA・JCB・American Express・Diners Club・Master Card などが使えます。ただし「限定プランなど一部お得なプランでは現金のみ」との注記があります。

Q. 周りに見るものはありますか?
A. あります。箱根町指定史跡の東光庵、芭蕉の句碑、熊野神社、松坂屋本店所有の薬師堂、阿字ヶ池、箱根七福神の弁財天が徒歩圏にあり、歴史散策コースとして木道も整備されています。

まとめ──きのくにやは誰に向く宿か

要点は4つです。そのうえで、どう受け止めるかを書きます。

  • 湯は本物です。源泉2本、加水なし。神遊風呂(男性用 湯香殿)は循環も消毒もしていません。34.7℃の硫黄泉に、湯の花が浮きます
  • 歴史は掲示を読む価値があります。紀州徳川家の血筋、国道1号のもとを発起した七代目、京都から来た薬師堂、ドイツ兵が掘った池。ここまで濃い土地は、そう多くありません
  • もてなしは期待しないでください。泊まった日は、40室ある宿で夕食の席に5組。フロントも配膳も、出てくるのはひとりずつでした。貸切風呂と要望はチェックイン時にまとめて伝えるのが正解です
  • そのかわり、静かです。大浴場をひとりで使えることがあり、離れに至っては、そのエリアの客が自分だけ。人に会わずに過ごしたい人には、むしろこちらが本題です

サービスの低さを、どう受け止めるか

楽天トラベルの評価は3.67です。その理由はサービスの質だと思います。もてなしという点では、いまどきの旅館やホテルに比べてひとつかふたつ、水準が下がります。

ただし、見方を変えることもできます。

日本の宿のサービスが、そもそも過剰なのです。海外でホテルに泊まったときの感覚からすれば、きのくにやの接客はごく一般的な水準です。荷物は自分で運ぶ。説明は聞けば答えてくれる。頼めばやってくれる。それだけのことです。

だから、こう分かれます。

  • もてなされたい方には、物足りません。先回りして世話を焼いてくれる宿ではありません
  • 泊まって、湯に入って、飯を食う。それでいい方には、まったく遜色ありません。部屋は手入れされていますし、館内には読みごたえのある掲示が並んでいます。標高850mで、夏でも涼しい。そして静かです

向く人と向かない人が、はっきり分かれる宿です。そこを分かって行くなら、悪い宿ではありません。

行くなら、早いほうがいいと思います

最後に、泊まって感じたことを書きます。宿が何かを発表したわけではありません。

この宿は、いまの流行からは離れたところにあります。館内で会えた方は、みなさん年配の方でした(会えたのは数人です)。使われていない棟もあります。

311年続いてきた宿です。けれど、いまの姿がこのまま続くとは限りません。行ってみたいと思われたなら、先延ばしにしないほうがいいと思います。

もうひとつ、値段のことを正直に書きます。

今回泊まった離れ【日々亭】は、楽天トラベルで予約できる部屋の中ではいちばん高い部屋です(楽天トラベルで空室が出た日の平均が85,077円。2026年9月13日に先の11日分を調べた数字で、過去の実績平均ではありません)。この金額を出すのであれば、もてなしの行き届いた宿はほかにもあります。それでもここを選ぶ理由があるとすれば、部屋に付いた硫黄泉の露天風呂と、扉を6枚くぐった先の静けさです。そこに価値を感じるかどうかで分かれます。

逆に、吉昇亭や春還楼のような料金帯であれば、ここまで書いてきた「案内の少なさ」はほとんど気になりません。実感としては、この宿は、安い部屋のほうが釣り合いが取れています。

なお、ひとりで泊まる分には、困ることは何もありませんでした。

結論はこうです。

きのくにやは「サービスを買う宿」ではなく、「湯と歴史を買う宿」です。

そして、実際に泊まってみていちばん強く感じたのは、ここは隠れ宿だということでした。大浴場も離れも、ひとりで使えました。箱根湯本や強羅では、まずこうはなりません。

静けさを買いに行く宿——そう言い切っていいと思います。温泉にゆっくり入りたい方、人に会わずに過ごしたい方には、強くおすすめできます。

芦之湯は寛文2年(1662年)に湿原を干拓して温泉場が開かれ、364年になります(箱根町観光協会)。さらに館内掲示によれば、1280年にはすでに「葦の海の湯」として文献に出てきます。明治37年に道が通って人が泊まらなくなり、平成になると各地の観光地に押されて知名度を失った——館内の掲示と新聞記事はそう書いています。来づらい場所であることは間違いありません。

けれど、江戸時代の温泉番付に載っているということは、それだけの湯が自然に湧いているということです。いまも自噴しています。その湯を、混雑と無縁に味わえる。これは、来づらさと引き換えに得られるものだと思います。

霧のかかった茅葺きの庵と、湯の花の浮く濁り湯。ほかの箱根では味わえないものでした。

出発前の最終確認──芦の湯バス停の全時刻表

行く日が決まったら、ここを見てください。往路・復路とも全便を載せています。

バスの本数は、思ったより多い

「山の上だから本数が少ないのでは」と心配する必要はありませんでした。

箱根登山バスの運賃表と時刻表(芦の湯は990円)|箱根・芦之湯 きのくにや

運賃表を見ていて、おもしろいことに気づきました。芦の湯(145番)の欄に、目印として「きのくにや」「松坂屋本店」と書かれているのです。バス会社の案内板が、この2軒を芦之湯の目印にしている。それだけこの2軒しかない、ということでもあります。

平日 土・日・祝
1日の本数 約40本 約50本
昼間(11〜15時) 1時間に4本(約15分間隔) 1時間に4〜6本(10時台が6本で最多)
始発 6:30 6:30
最終 20:48 20:48

(箱根湯本駅発・箱根町港行き/2026年4月1日改正)往路の掲示は「平日」「土・日・祝日」の2区分です。一方芦の湯バス停の掲示は「平日」「土曜日」「日・祝日」の3区分で、分け方が違います。

ただし最終が20:48です。箱根湯本で夕方まで遊んでいると詰みます。ここだけ気をつけてください。

交通系ICカードは使えます。箱根フリーパスも使えます。

なお宿が楽天トラベルに出しているアクセス案内では、小田原駅・箱根湯本駅・小涌谷駅から「元箱根」行きバスで芦ノ湯下車、徒歩1分とあります。芦ノ湖までは車で5分です。

帰りのバス(芦の湯発)

宿の館内に、芦の湯バス停の時刻表が掲示されていました。帰りの便もしっかりあります。

バス停には木造の待合所があり、ベンチと窓があります。雨の日に15分待つことになっても、濡れずに済みます。

芦の湯バス停の木造の待合所|箱根・芦之湯 きのくにや

箱根湯本駅・小田原駅方向(宮の下駅経由/宿のロビーに掲示されていた2025年4月1日改正の時刻表を、2026年9月12日に写したものです。箱根町線は2026年4月1日にダイヤ改正されています。小田原駅行の便は2026年10月1日時点の時刻表検索と同じ時刻でしたが、最新は箱根登山バスの時刻表でご確認ください)
土曜と日・祝日は時刻表が分かれています。違うのは12時台だけです。

時 平日 土曜 日・祝日
6 30▲◎ 30▲◎ 30▲◎
7 05▲◎ / 35▲◎ 05▲◎ / 35▲◎ 05▲◎ / 35▲◎
8 10▲◎ / 50◎ 10▲◎ / 50◎ 10▲◎ / 50◎
9 20◎ / 40 20◎ / 40◎ 20◎ / 40◎
10 00◎ / 25◎ / 50 00 / 10 / 25 / 40 / 55 00 / 10 / 25 / 40 / 55
11 05 / 25 / 45 10 / 25 / 40 / 55 10 / 25 / 40 / 55
12 05 / 25 / 45 10 / 40 / 55 10 / 25 / 40 / 55
13 05 / 25 / 45 10 / 25 / 40 / 55 10 / 25 / 40 / 55
14 05 / 25 / 45 10 / 25 / 40 / 55 10 / 25 / 40 / 55
15 05 / 25 / 45 10 / 25 / 40 / 55 10 / 25 / 40 / 55
16 05 / 25◎ / 45◎ 10◎ / 25 / 40◎ / 55◎ 10◎ / 25 / 40◎ / 55◎
17 05◎ / 25◎ / 40◎ / 55◎ 10◎ / 25◎ / 40◎ / 55◎ 10◎ / 25◎ / 40◎ / 55◎
18 20◎ / 45◎ 20◎ / 45◎ 20◎ / 45◎
19 15◎ / 45◎ 15◎ / 45◎ 15◎ / 45◎
20 10◎ 10◎ 10◎

土曜の12時台は25分発がありません。日・祝日にはあります。ここだけ間違えると30分待つことになります。

記号は掲示のままです。▲=ユネッサンは通過いたします/◎=小田原駅行。

◎の付いた便だけが、小田原駅まで直通します。数えると平日は37便のうち19便、土曜は44便のうち19便、日・祝日は45便のうち19便でした。半分ほどです。

そして昼間には◎がありません。平日は10:25のあと、次の小田原駅行は16:25です。土曜・日祝も9:40のあとは16:10まで空きます。昼に発つなら、箱根湯本駅で小田急線に乗り換えてください。

▲(ユネッサン通過)は朝の4便だけです(6:30、7:05、7:35、8:10。3列とも同じ)。

帰りの最終は20:10。これは◎なので、小田原駅まで行きます。

芦ノ湖方向(箱根町港行き)は、土曜と日・祝日が同じダイヤです。

時 平日 土曜・日祝
6 54 54
7 24 / 59 19 / 59
8 24 / 52 24 / 47
9 17 / 47 02 / 22 / 39 / 49 / 59◎
10 09◎ / 22◎ / 37◎ / 57◎ 09◎ / 19◎ / 29◎ / 39◎ / 49◎ / 59◎
11 12◎ / 27◎ / 42◎ / 57◎ 09◎ / 19◎ / 29◎ / 49◎
12〜15 12◎ / 27◎ / 42◎ / 57◎ 09◎ / 19◎ / 29◎ / 39◎ / 59◎
16 12◎ / 27◎ / 52◎ 09◎ / 27◎ / 57◎
17 22 / 52 27 / 52
18 22 / 52 22 / 52
19 22 22
20 12 12
21 12 12

備考:◎=箱根神社入口を通過(10〜16時台の便。土日祝は9:59も)。芦ノ湖方向の最終は21:12です。

チェックアウト後に芦ノ湖へ抜けるのも、湯本へ戻るのも、どちらも無理なくできます。


※アイキャッチ画像は、がやが撮影した客室露天風呂の写真に文字を入れたものです。本文中の写真はすべて、2026年9月12〜13日に現地で撮影したものです(古い図と絵葉書は館内の展示を撮影)。

※本記事の情報は2026年9月12〜16日に確認した時点のものです。料金・営業時間・バスのダイヤは変わることがあります。日帰り入浴でお出かけになる前には、宿(0460-83-7045)で確認してください。

🏨 楽天トラベルできのくにやを予約する

▶ 楽天トラベルで「きのくにや」の空室と料金を見る

▶ じゃらんnetで「きのくにや」を見る(美山亭もこちら)

芦之湯という土地そのものについては、芦之湯温泉ガイド|箱根唯一の中性硫黄泉・文人が愛した1662年開湯の湯にまとめています。江戸の温泉番付での位置づけや、七湯の中での性格の違いはそちらをご覧ください。

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この記事を書いた人:がや

会社の出張で過去20年、全国のビジネスホテルや温泉宿に泊まってきた執筆者。趣味でも温泉巡りを続け、温泉宿は通算200泊以上。自身の実体験をもとに本音でレビューし、記事内の情報・数値は実際の宿泊体験と公式発表をもとに整理しています。

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